文化放送「The News Masters TOKYO」のマスターズインタビュー。パーソナリティのタケ小山が今回「この社長にぜひ会いたい!」と訪れたのは、空席情報を提供しているITベンチャー株式会社バカン。
海外からの大型の資金調達を達成し”誰もが時間を無駄にしないやさしい世界”の実現へとひた走る河野剛進社長と「こうあってほしい未来」について、熱いトークを繰り広げた。
●「そこが空いているか?」が1秒でわかるやさしい世界をつくりたい
タケの質問は社名である「VACAN(バカン)」の意味を問うことから始まった。河野さんが考えた造語ということだが、実はこれは英語で「空いている」の意味を持つ「Vacant」から来ている。「我々が目指しているのは、ありとあらゆる場所の空き情報が1秒でわかる世界です」たとえばレストランやカフェ、デパートや駅ビルのトイレ。それらが「今空いているかどうか」の情報をリアルタイムで提供する。
このサービスをビジネスにしようと思ったのは「僕自身がすごく欲しかったサービスだから」だと河野さんの語る理由はとてもシンプルだ。原点には、子どもが生まれたという個人的な体験があった。「時間というものがとても大切なものだと気づいたんです。忙しく働いている日常の中で、ほんのちょっとした時間でもすごく貴重だなって」そう思うようになったきっかけとして、たとえばこんなことがあったという。
「週末に家族で大型のショッピングセンターに遊びに行ったときのことです。帰る前に何か食べて帰ろうと思ったのにどの店もとても混んでいる。空いている店を探し回っているうちに子どもがぐずり出して泣きだしてしまったんです。じゃあ、もうあきらめて帰ろうか…となって、せっかくそれまで楽しく過ごしていたのに最後に少しイヤな気持ちになっちゃったんですよね」
このとき、「空き情報がすんなり分かるようなサービスがあれば、イヤな気持にならずに済む。過ごす時間のすべてをよい体験に変えられるんじゃないか」と現在につながるバカンの事業の根幹となるアイデアがひらめいたのだ。
●世の中に夢を与えられる存在になりたい
「もともと起業志向だったんです」という河野さん。大学2年生くらいからいつかは自分自身で会社を興そうと思っていた。その理由は「僕は宮崎の出身なんですが、田舎からどんどん人が減って過疎化していくのを見ていて、地方を盛り上げるためにはスタートアップと呼ばれる企業が頑張っていくしかない」と強く感じていたからだ。地元が大好きだから、一緒に経済を盛り上げていきたい。そのためには自ら起業することは必然だった。
「ただ、自分が本当にやりたいものを見つける必要があった。情熱をもってがんばれることじゃないと長続きしない。そういう対象が見つかったら必ず起業すると決めていました」すでに起業している人たちに会いに行ってたくさんの話も聞いた。彼らから、世の中をもっとより良くしたいという強い想いを感じたことも、河野さんの背中を押してくれた。「本気で世の中を変えようとしている人たちがいる。自分自身も、そうなりたい。世の中に夢を与えられる存在になりたいと思ったんです」
冷静に着々と準備を進めていった。「大学院はMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)を選びました」技術を元に経営することを学び、「0(ゼロ)→1」の勉強を深めることができたという。就職先に三菱総研というシンクタンクを選んだのも「日本全体を俯瞰したかったから」という明快な理由があったからだ。
「ちょうど民間企業に対してのコンサルティングを始めるというタイミングだったのも幸いでした」ただ、当時はまだビジネスの核を見つけてはいなかった。「自分自身が特に何も困っていなかったから、解決したい課題が無かったんです」もう少しキャリアを積もうと、グリーに転職したのは事業会社で意思決定をする経験をしておきたかったからだという。
「グリーでも非常に面白い経験をさせてもらいました。ただ、大きな会社での事業の立ち上げは、他の事業とのシナジーを考える必要がある。自分がやりたいことだけを貫けるというのが、起業する最大のメリットだと思いました」。起業すれば、自分たちが本当にやりたいことをストレートに世の中に問うことができる。
河野さんがその「本当にやりたいこと」を見つけて起業したのは2016年、33歳の時だった。
●「ニーズはある!あとは検証だ」
「これまで世の中に存在していなかった空室情報の提供に特化したサービス。これがビジネスになるという確信はあったんですか?」と尋ねるタケに、河野さんは笑って「確信はなかったですね」と答えた後にこう続けた。「でも、絶対にニーズはあると思っていた。僕自身が欲しいサービスだったというのが大きいです」
空室情報を提供するということは、単なる便利さや効率の提供ではない。限られた時間をほんの少しも無駄にしないことへの挑戦なのだ。「時間に対する価値は普遍的で、今後ますます増していくと思っています。現代は物を買うだけでは満足できない時代だから、限られた時間をいかに充実させられるかということが人生を豊かにするための大きなファクターになるはずです。ニーズはある。どんなふうにサービスを提供するかという課題はあるものの、それは一つずつ試しながら検証していけばいい。学生時代から起業を意識して動いてきたから「もともと覚悟はあったし、2年間分のキャッシュフローも考えて資金も貯めていました」
初めて売り上げが立つまでに、半年かかった。「想定内ですから不安はなかったです」と、河野さん。「僕たちのサービスは完成品を納品するのではなく、お客様の声に基づいて個別にチューニングしていくことが大事なんです」
とにかく手探りでやっていくしかない。「機器の設置も自分でやるしかなくて、脚立をもっていざ取り付けようと思ったら落として壊しちゃったなんてこともありました。すみません。また持ってきます!って慌てて戻って出直したなんてことも…」と当時の失敗談も今は笑い話だ。
納品期日の前日になっても製品が完成できなくて、社員みんなで泣きながら徹夜でがんばって間に合わせたという聞いている方がヒヤッとする話も「下町ロケット風です」と笑いとばせる強さと明るさを持つ河野社長のもと、「今も全員が毎日ギリギリまでチャレンジを重ねています。まるで文化祭のようなテンションですよ」という日々が続いている。
●「空き情報」が分かれば、ストレスフリーが実現する
「バカンのサービスの具体的な事例を教えてください。僕も体験してみたいな」と興味津々のタケ。最近の導入例として挙がったのは、東京駅に隣接する大丸百貨店東京店だ。「各階にある喫茶店(カフェ)の空き状況がエントランスのデジタルサイネージで確認することができます。QRコードを読み込むと、離れた場所から情報を得ることもできますよ」
つまり、こういうことだ。これまではフロアごとの喫茶店(カフェ)に空席があるかどうかは、その階まで上がって自分の目で確認する必要があった。行ってみたら満席で、また別の階へ移動するという苦い経験をした人も多いはずだ。ところが、バカンの空席情報サービスが導入されたことでその必要がなくなった。
「一階の入り口で空き状況がわかるから、時間の無駄もないし、何より余計なストレスがかかりません」さらに、大丸ではトイレの空き状況の提供も併せて行っている。混んでいるトイレで行列をするわずらわしさから解放されるのは、デパートの利用客にとって非常にありがたいことだ。
「そういうサービスをお客さんのために導入しようというデパート側も優しいよね。空港や駅、スタジアムなどにもどんどんそのサービスを入れて欲しいなぁ」とつぶやくタケに、河野社長は「今後、それが当たり前になっていくと信じています」とキッパリ。
「ECやバーチャルの発達で出かけなくても物が買える時代、スポーツ観戦も自宅にいながら臨場感のある疑似体験ができる時代になった。でも、その場所に出かけて行くということやリアルな体験には、やっぱり価値がある。
その体験をいいものにできるかどうかを左右するのが時間の過ごし方。無駄なく、ストレスなく自分の時間を有意義に使えたという実感が大事だし、それをサポートできるのが僕たちバカンの提供するサービスなんです」顧客満足度が上がれば、購買行動につながっていく。ウィンウィンの関係が出来上がるというわけだ。
●「VACAN」という社名に込めた想い
どんな話題になっても、常に笑顔で、時には大声で笑いながら答えを返してくれる河野さん。「河野社長、本当に陽気な方ですね!」と、陽気なことなら引けを取らないタケが思わずつぶやいた。
「僕たちの会社は、働き方も自由です。いつ働いても、いつ休んでもいい。僕も平日に子どもの参観日で休みを取ったりしています。だから、変なストレスはないですね」とはいえ、求められる仕事のレベルは相当厳しそうですが…と問い返すと「うちのメンバーは自分たちが欲しいものを作りたいという想いを共有しているから、それが仕事に対する最大のモチベーションになっています。だから苦しくてもなんとかなるんですよ」と、ここでもまた高らかな笑い声を響かせる河野社長。
自分の時間を大切にしたい、だから他人の時間も大切だ。みんなが自分の時間を大切にできるやさしい世界を作りたい。「僕たちはこの一点で、強くつながっています」河野さんは自らを「これをしたい!と引っ張るタイプのリーダーではなく、どうしたい?と問いかけるタイプのリーダー」だと自認している。「大いに議論しながら、一緒にいいものを作っていこうというのが僕たちのスタイルです」
空席情報というビジネスの種を見つけた。「まずはこれをしっかりやりたい」という河野社長。すでに導入事例のあるレストランやカフェ、トイレだけでなく病院や駐輪場・駐車場、ホテルや駅、鉄道車両などいたるところにニーズがある。
観光地のバスが常に満杯で現地の住民がバスに乗れないというような問題も解決したいし、さらには町全体で人の動きを広域で仕掛けていくというようなことも手掛けていきたい。バカンの提供する空席サービスが隅々まで行き渡ると、人は多いんだけど混雑や行列が無くなる。ストレスが無くなって互いに配慮できるような優しい世界がきっと実現する。「覚悟をもってこの事業を始めた。バカン(=VACAN)という名前を社名にしたのも、ここから逃げないという気持ちからです」
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcast で。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00 生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野、長麻未(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40 頃~)