文化放送The News Masters TOKYO『マスターズインタビュー』今回のお相手は、ピップエレキバンなどで知られるピップ株式会社の松浦由治社長。松浦社長は1958年、東京都のお生まれ。早稲田大学を卒業後、医薬品の卸売を行う「三星堂」を経て、ピップフジモト(現在の前身)に入社。東西の事業会社が合併したピップで2010年、副社長に就任し、去年から社長を務めている。その胸に秘めたる思い、リーダーシップ、ビジョンとは!?文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティ・タケ小山が迫った。
◆会社をこう変えたい!
いわゆる創業家の出身である松浦社長。「大学2年生くらいまでは後を継ぎたくないと反発していた」と当時を語った。
大学3年の時に家業を継ぐ決心をしたものの、いきなりピップフジモトに入社するのではなく、別の会社で修業することに。医薬品の卸を行う三星堂(当時)で、4年の間、物流や営業、人事を経験する。
その修業時代に、社長が交代することがあった。新社長が全支店を回るということがあり、当時の松浦青年は、高揚感が高まるのを感じた。この経験から、経営者になった際には「現場で社員と話したい」と思い描いたという。
タケ「現在の会社で、ここは、変えたいと思ったことは?」
松浦「社員は安定を望むあまり、新しいことにチャレンジすることが恐い点です」
それに対して、まずは気持ちから変えていく方針を定める。そもそもピップのDNAは…
①他がやらないことをやりましょう
②どこよりも早くやりましょう、
③お客様、お得意様を大事にしましょう
この三つがある。社員は安定を望んでしまう反面、もっと新しい挑戦をしたいと変化を求めてもおり、これに関しては、「少しずつ変わっていくかなと期待している面でもある」という。
◆新たなターゲット
1972年に発売されたエレキバンは、CMも話題となり、ヒット商品となる。しかし、そこには課題もあったのだが、その課題とは…
「年配の方がお使いになるけど、20~40代の利用が上がりませんでした」
抜群の商品知名度は誇るものの、どうしても年配者のイメージがついているのも事実。そこで、産前産後の女性にターゲットを変えることに。産前産後の女性と言えば、体調や環境の変化で、身体も痛めるし肩も凝る人が多い。そこで医薬品ではなく、磁石で、母体へも赤ちゃんにも影響もなく安心して使えるエレキバンをプッシュした。
去年の春から「エレキバンfor mama」として、ベビー専門店や、ドラッグストアのベビーコーナーに置いたところ、「少しずつ数字が上がってきていると思う」と社長も手応えを覗かせる。
そして、もうひとつ。ターゲットの見直しを図ったのがマグネループという磁気ネックレス。3年前くらいから、スマホの利用で首が凝ると言われており、それを「スマホッ首」と命名した。稲川淳二さんを起用したユニークなCMを流したところ、そのCMの前後で倍くらい売り上げが変わったそうだ。さらにこのスマホッ首対策として「マグネネック」という商品も製造。肩こりの中でも首に絞ることで、男女ともにオフィスワーカーの方が反応した。
こうして新たなターゲットの開拓に成功したわけだが、若い人にもターゲットを広げることは、社内ではネガティブな意見もあり、なかなか実現しなかった。しかし…
「やってみなきゃわかんないし、ダメならやめればいい。やらないと結果も出てこない」と松浦社長は語る。
◆マーケティングを変える
ピップグループには、他にも主力商品がある。仕事中や睡眠時の利用を想定した着圧ソックス「スリムウォーク」。これを用いて、大学生のビジネスコンテストへの参加や、スポーツに特化した商品の開発など、販路を拡大しようとしている。その理由とは何なのか?
タケ「学生のビジネスコンテストに参加したそうですね?」
松浦「昨年、早稲田・慶応・明治のマーケティングを学んでいる学生に、スリムウォークを題材として“どう売り出すべきか?”とビジネスコンテストに出しました」
ここには面白いものも出てきて、手応えも感じており、実際にもう少しコンタクトを強めてやりたいという気持ちもあるそうだ。マーケティング面では、他にも「スリムウォークビューアクティ」という商品も販売している。スリムウォークは、これまで家庭や仕事中、睡眠時の使用だったが、これは軽いランニングなど、スポーツ用に特化した商品だ。
タケ「なぜスポーツ方面に進出を?」
松浦「これまでスポーツ系の商品には注力してなかったのですが、ラグビーのワールドカップや東京オリンピックなどスポーツイベントの盛り上がりや、健康意識の高まりを受けまして」
他にも、人生100年時代、健康寿命を延ばそうというトレンドに対し、そちらに商品を振って、スポーツをする人のサポートをしたいという想いも、そこにはある。
◆いま変わる!ピップの商品開発
あまり知られていないが、ピップグループの売上の9割以上は卸業の分野で生まれている。ネット販売の台頭もあり、「このままではいけない」という考えから、ピップは今、岐路に立たされている。そこでタケは、松浦社長の考える商品開発にフォーカスした。
タケ「現在、商品はいくつあるのでしょう?」
松浦「アイテム数では400以上あると思います。売上で並べていくと、一部の商品で大多数の売上を占めているので、品数は絞っていかなければ、と思っています。とはいえ、売上が立っているので簡単にはいきませんが」
同じような商品を作っても価格競争を招くことになる。それを避けるため、「他にないものを」となると調査も感性も必要になる。本当は消費者が何を欲しがっているのか。逆に言うと、「自分が欲しいモノは何だ」というのが、この考えの出発点になる。
近年は「消費者起点のマーケティングカンパニーになろう」と取り組んでいる松浦社長。しかし、会社として卸の色が強いためか“モノをどう売ろうか”となってしまう。だが、発信したいのは「顧客はどういう形で使うのか、どう商品の良さを享受するのか。こういう場面で使うといいですよ」という情報。これをいかに取り扱うかがネックになっている。
単純に「これがありますよ」ではなくて「こういう悩みがあるときには、これがいいですよ」というのを伝えていくのが大事なのであり、使うシーンを頭に描いてどうアプローチするのかが、第一歩と考えている。
◆ピップのルーツ。次の100年をどう迎える?
ピップを傘下に収め、卸売業も担うフジモトホールディングス。この前身となる会社は1908年に大阪で創業し、今年で創業111年の歴史を誇る。この歴史を、後世にどのようにつなぐのか?タケが問うと、このような答えが返ってきた。
「eコマースは増えていく。ただ、対面販売は無くならないと思う」
それは日本人の特性として「現物を目で見たい、触りたい」という点によるものだ。ただこれは、10~20年は変わらなくても、現代のスマホ世代がメインの購買層になる30~40年後は変わっているかもしれない。ピップとして顧客とどう向き合うのか、まったく違う発想の販売形態があるかもしれないし、「ネットが中心になるなら、アマゾン・楽天のようなeコマースのプラットフォームをピップも作らないといけないかもしれない」という危惧もある。そこからもっと先の未来のことについてタケが続ける。
タケ「次の100年のビジョンは?」
松浦「企業30年説というのがあります。次の100年を迎えるまでに、3回くらいは山と谷があると思いますね」
その中で、いかに時代に対応して変化できるかが肝になってくる。今の方針が100年間続くとは思わない。20~30年は今の方針で命を繋いで、その間に次を考えていくのが大事とのこと。
今後については、「ピップという名前が出てこなくても、“これがあってありがたいよね”、と笑顔になってもらえること」この姿を企業として追い求めつつ、松浦社長個人としては「いい形で次の世代に繋いでいきたい。ゴルフのパープレイは無理としても(笑)」と茶目っ気を込めて答えてインタビューを締めくくった。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野・長麻美(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)