50代からが面白い!と言い切る起業家の生き方
ライフネット生命保険といえば、インターネットで簡単に申し込める新世代の保険として年々業績を伸ばしている生命保険会社。4月10日からのマスターズインタビューでは、創業者にして現会長の出口治明氏に、大胆な半生を語っていただいた。
大手生保を58歳で退職、ネット生保をベンチャーで起業
出口さんは大手生命保険会社「日本生命保険相互会社」に30年勤めた業界のベテラン。京都大学法学部出身で、日生時代には金融制度改革での保険業法改正時のMOF担(大蔵省や日銀などの担当)として活躍し、その後ロンドンの現地法人社長として英国に駐在。帰国後、国際業務部の部長に就任してからは、日本の生命保険会社として初の中国進出などに尽力した。
ところがそのころの日本生命は国内需要が大きく、海外進出には消極的だった。意見の相違から当時の経営陣と対立したことで、冷遇されてしまう。そんなとき友人の紹介で出会ったのが谷家衛(現あすかアセットマネジメント会長)さんだった。
「保険のことを聞きたいというので会ったんですが、その日のうちに彼と一緒に保険会社をつくることになってしまいました。決め手は直感です。感じのいい方だったので、これも運命かなと思って。」
50代後半の出会いから、会社をやめてベンチャー起業という挑戦を選んだ勇気に、52歳にして、新番組のメインパーソナリティを引き受けたタケは大いに励まされた。
大手の半額で、若い人が買える保険を
こうしてライフネット生命は、保険を知り尽くした出口さんと、投資家の谷家さんの偶然の出会いで生まれた。元の会社から部下を連れてくる選択肢もあったが、それでは新会社がミニ日生になってしまって面白くない。出口さんはパートナーに、保険ビジネスの経験がない現社長の岩瀬さんを選んだ。
「保険を作るのは僕ですが、お客様は若い人ですから。若い人と組んだほうがよいと思ったんです。これからはダイバーシティの時代ですから、いろんな人がいたほうがいい会社になりますしね。」
創業にあたり出口さんが考えたのは、保険本来の社会的使命だった。今の若い世代は比較的所得が低く、高い保険料を払うのは難しい。そこでインターネットを活用して、人件費や事務所代などの経費を抑え、従来の約半額で補償ができる仕組みを工夫した。
「日本の将来を考えたら、若い世代が安心して暮らせないと、経済的な不安から晩婚、少子化になる。そんな時に安価で入りやすい保険があれば、出生率も上がっていくのではないでしょうか。」
ユニークな社風 若手社員が会長に指示出し!?
「大手がやらないことをしろ」社員にはそう言い続けていた。大手保険会社のトップが誰もやっていないからと、20代の部下の指示で会長自ら「Twitter」も始めた。また、ライフネット生命には140人の社員に50以上もクラブ活動があるが、中には「子育て部」などもあり、子育て中の社員が中心になって盛り上がっている。そんなユニークさは会社の採用方法にも表れている。
「面接ではなかなか人物がわかりませんから、難しいテーマを課して、時間をかけて自宅でゆっくり論文を書いてもらうんですよ。これは大手ではできないベンチャーの強みです。大手にいるような人を採っていたら絶対負けますから、人とは違ったことを考える人をじっくり採用していくのがライフネットのやり方です。」
人、本、旅の人生哲学
ベンチャービジネスでは常に新しい事業アイデアがないと生き残れない。しかしアイデアは、人に会ったり、読書や、いろんな場所で体験をすることで刺激を受けることでしか生まれない。ライフネット生命では、社員が仕事以外の時間を持てるように休暇にも心を配っているそうだ。
「アイデアを出すには、人、本、旅で勉強しないとだめですね。本から学ぶといえば、ダーウィンは賢いと思いました。彼は『賢い人や強い人が生き残るんじゃない、適応や対応がすべて』ということを言っていますが、まさにその通りです。例えばライフネットを始めたころ、スマートフォンがこんなに普及するとは思っていませんでした、でも当時思い切って『スマホ×保険』でやってみたら今や主流。世の中はわかりません。変化に対応できるものだけが生き残る。ダーウィンも世界を旅して仕事をした人ですが、経験から学ぶことは大事です。」
50代こそなんでもできる人生の黄金期
「50代は人生の真ん中だと思っているんですよ。人生80年としたら、50代はマラソンなら折り返し地点です。帰り道は見えている、世の中が大体見えているわけです。なんでもできますよ。前半で一度経験しているわけですし、人間関係もある程度ある、世の中がよく見えているわけですから何をやっても無敵です。」
調度その折り返しに立つタケは、感慨深い。出口さん自身はその当時、会社を辞めてベンチャーを始めたが、谷家さんとの出会いのように、人生を左右するような大きな決定では直感に従うという。
「直感というのは、過去に自分で勉強したことが、脳の中で回って出ている結論です。直感で決めるというのは、自分を信じるってことですよ。」
それもこれも、読書や出会い、自分の目で見て歩く旅などで蓄積した知見の集大成なのだろう。最後にタケは、読書好き歴史通の出口さんが、ことのほかモンゴル帝国の皇帝クビライ・カアンが好きだというので、魅力を聞いてみることにした。
「クビライは異教徒でも外国人でも適材適所で多様な人材を登用しました。13世紀の常識に左右されず自分で考えて行動する合理的な人だったんです。僕は自分の頭で考え、自分の言葉で考えを言うことが一番大事なことだと思っています。それが人と人のコミュニケーションを一番円滑にするのではないでしょうか。」
今年の6月ライフネット生命の会長職を引退されるというニュースもあり、これまでずっとベンチャーをけん引してきたパワフルな60代を終え、70代を迎える出口さんの今後が気になるところだ。
「考えても、仕方ない。今晩何を呑むか考えたほうが楽しいですよ(笑) 人生次の瞬間に何がおこるかもわかりませんから、毎日を一所懸命、ご縁を大事に、生きていく延長線上にしかない。会長は引退しますけれど、元気なうちは創業者としてまだまだ働こうと思っています。」
有名ベンチャーの会長職であり、著作も多数、講演活動など多忙を極める出口さんだが、週に3冊は本を読まれるそう。穏やかな口調で語られる言葉には、教養と経験に裏打ちされた重みがあった。70代を前にまだまだ現役の気迫を感じ、タケも意気に感じる出会いとなった。