『マスターズインタビュー』今回のお相手は、千葉県に本社を構えるLPガスを取り扱う「アイ・エス・ガステム」の石井誠一会長。創業約135年という歴史ある企業の4代目として36歳で社長に、そして48歳で会長に就任した石井誠一さん。若くしてマスターの仲間入りを果たした彼の改革手腕と経営哲学、そして電力自由化からくるエネルギーの未来についてどのように考えているのか?文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティ・タケ小山が迫った。
◆アイ・エス・ガステムについて
タケ「まずはアイ・エス・ガステムとはどんな会社なのでしょうか?」
石井「創業が135年前でして、最初はお米の直売からでした。」
アイ・エス・ガステムのルーツは、「石井商店」というお米の直売所だった。そこは職人の多かった町で、当時は俵単位で売られているのが当たり前だったお米を、さらに小分けにした枡で売り始めたところ、これが大ヒット。加えて、売上の回収に関しても通例では掛け売りで、年に3回ほどの回収を、小さく売った上に現金での販売を行い、当時としては画期的な方法で存在感を示していく。
タケ「なぜ、そこからガスをチョイスしたんですか?」
石井「米から炭や薪に代わったのは、曾祖父(初代)が安定性を求めたと思うんです。お米は獲れたり獲れなかったりします。さらに劣化もします。炭や薪は劣化をせず、安定しています。」
さらに戦後、日本に進駐軍が登場するとともに、石油やガソリン、プロパンガスも入ってくる。収益などの面において「安定」していることから、「これからはプロパンガスの時代になる」と予見。3代目の時に、炭や薪からプロパンガス事業に手を付ける。
利用者側のトレンド以外に、プロパンガスには、事業者側にも安定したパフォーマンスをもたらす。プロパンガスは、家の外に設置されているため、お客さんの在宅の有無に影響されず、自分たちのペースで設置・管理ができる。ここで3代目は、さらに大きく舵を切った。なんと、余分な商売をやめてガス一本に集中したのだ。
◆他企業で働いた経験から得たもの
こうした会社の進化・変革を間近で見聞きしてきた石井会長。学校を卒業すると同時にビジネスマンとしての修行も始まる。
タケ「アイ・エス・ガステムに就職する前は他の会社にいたそうですね?」
石井「プロパンガスの会社に1年ほどいまして、その後ガスなどの元売り会社の財務部で約2年働きました。」
そこで目にしたのは、社員が明るく楽しそうに仕事をしている光景。若き日の会長は「こうやって皆が喜んでわくわく働けるような会社にしなければいけない」と噛み締めたという。修行を終えて帰ってきたその青年は何を目指したのだろうか?
タケ「外から帰ってきて、自社で変えなくてはと思ったところは?」
石井「当時の会社は1人が全体を引っ張る機関車のような会社でした。”黙って俺についてこい”、”言われたことをやりなさい”、というような会社です。」
真面目で従順いいところでもある半面、「先頭が止まると全体が止まる」という脆さも持ち合わせている。当然、これでは組織として弱い。機関車から何に変えようとしたのか?石井会長は続けて語りだす。
石井「帰ってから、私は新幹線にしようと思いました。つまり、それぞれの車両と車輪に駆動力がついているように、一つ二つ車輪が壊れても、みんなが自分で学んで行動できる体制です。」
新幹線への変貌を遂げる新生「アイ・エス・ガステム」。一方で、今後も残さなければいけないものも、そこにはあった。
石井「真面目に手抜きをしないで一生懸命やるという社風、生き方は会社だけでなく人間としても、残していきたいなという風に考えています。」
◆ピンチ・信条・長く続けるコツ
会長職に就任されている現在までに、勿論あらゆる面において順風満帆だったわけではない。タケはその点についても訊いてみる。
タケ「石井会長のビジネスマン人生の中でのピンチについて教えてください。」
石井「ピンチはあまり感じないタイプなんです。ただ申しわけないことしたなぁということはあります。」
改革の断行、社風の変革のために、石井会長のビジョンに賛同した前勤務先の上司、部長、役員も、アイ・エス・ガステムという箱舟に乗船した。そうした仲間とともに、新しいアイ・エス・ガステムを築いていく石井会長。一方で、昔からいる父親の右腕、左腕だったスタッフたちが、会社の進化に追いつけず保身に走り、それに嫌気がさした若い世代が大分辞めてしまったのだ。泣いて馬謖を斬る。そうしたピンチに直面した石井会長は全部一掃して、残った人と一から会社を立て直すことに邁進した。そんな石井会長が、大切にしていることとは何なのだろうか?
タケ「石井会長が、ビジネスマンとして信条にしていることは?」
石井「約束を守る。嘘をつかない。大切な精神としては”give and give”」
見返りを求めず、お客様や社員が喜んでくれることを与え続ける。それが必ず、ぐるっとまわって誰かから、良いことを返してもらえるというのだ。さらにタケは、経営者としての根幹について伺う。
タケ「会社を長く続ける難しさはどんなところでしょうか?」
石井「時代の変化にあわせて常に変わっていく。そして3年以上同じことをしない。些細なことでも変えていくことがとても大切です。親父(3代目)からは “あんまり焦るなよ、欲をかきすぎるなよ・目が曇って判断間違うなよ。” と言われました。」
◆新たなチャレンジ・5本の柱
「3年以上同じことをしない」と語った石井会長。では新たにどんなことを行ったのであろうか?タケはこう続ける。
タケ「新しいチャレンジにはどんなものがありますか?」
石井「そもそも、何故新しいことをやるのかと言うと、一般的に企業や業種が上手くいくのは30年サイクルと言われているからです。そして、私はインフラはその4倍=120年だと考えています。」
その観点から、一つの事業だとリスクは高い。安定して時代の変化に対応するためには、よくなってきた時に、他の事業を重ねていくことなのだ。その意味で「5本の柱を建てると安定する」という教えにしたがった。中でも、人・モノ・金・情報が成功率が高いという。
タケ「具体的にはどんな事業でしょうか?」
石井「電気&ガス、リフォーム事業、環境事業=飲食店を対象にしたグリストラップ(厨房のクリーニングメンテナンス)、関連会社では、不動産、総合建築などもあります。ワンストップで住生活のお困りごとにお答えできる体制を整えてます。」
タケ「この新規事業は社長が決めているんですか?」
石井「これまでは私でしたが、昨年から体制を変えて、役員皆で勉強しながら、ビジネスチャンスはどういう方向か?とアイデアを出し合って全員参加型で決めています。」
◆エネルギーの未来について
電力の自由化や、西日本のエネルギー会社が首都圏に進出するなど変革期にあるエネルギー業界。その展望についてタケは質問する。
タケ「エネルギーの未来、どのようにみていますか?」
石井「CO2の削減が世界の流れです。時間はかかっても、今世紀末くらいまでに、太陽光・風力など再生可能エネルギーにシフトしていくでしょう。それでいて、エネルギーも地産地消のものになっていく流れになると思います。」
さらに石井会長は持論を展開する。
石井「お客様は、太陽光でも風力でもガスでも、何でもいいと思うんです。」
その心は、何を使おうと「暖かくなったこと」、「涼しくなること」、最終的にエネルギーの販売よりも、「こと」=サービスを売る会社に変わっていくということだ。そうしたこともあって、ガス主体ではあるものの、電気の販売も行っているという。
タケ「今後、会長が行いたいこと、行わなければいけないことは?」
石井「日本は少子高齢化で、年をとっても働く時代がやってきます。そうすると時間がなくなり自分でできないこともいっぱいでてきます。そうした家庭内のお困りごとを助けてあげる事業が必要です。家の中に入れるのは信頼の証。そこへ、顔なじみで信頼のあるプロパン会社が地域に根差して困りごとを次々と解決しながら、地域に貢献し、事業発展もしていくのです。」
初代から育まれた「安定」の精神。しかし、石井会長は先に述べた通り、新規事業にチャレンジし、石井商店時代からは、想像だにしなかった事業へと進出を果たしている。「安定」と「チャレンジ」。一見、相反するかのようなこの二つの姿勢だが、「5つの柱」としてチャレンジしているのは、創業時より掲げている、「安定」のため。それも「会社を安定させるためのチャレンジ」であり、矛盾するようで実は筋が通っている。時代が、どう変わろうとも「安定」を軸にチャレンジするアイ・エス・ガステムの精神は、他のビジネスでも参考になりそうだ。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:小尾渚沙(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)