文化放送The News Masters TOKYO『マスターズインタビュー』。今回のインタビューのお相手は、「ペッパーランチ」や「いきなりステーキ」を運営するペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長。一瀬社長は1942年生まれの75歳。ホテルなどでコックとして働いた後、1971年、27歳の時に独立。近年は、「いきなりステーキ」の急速な出店攻勢をしかけるペッパーフードサービス。そこにはどのような思いがあったのか、The News Masters TOKYOのパーソナリティ・タケ小山が迫った。
◆やっぱり肉が好き
今でこそ、ステーキやハンバーグをメインとした肉料理を主体に展開しているペッパーフードサービス。そもそも、いつからステーキに目を付けたのだろうか?
タケ「最初に出店したのは『ステーキくに』ですか?」
一瀬「はい。27才で独立し、最初はハンバーグもエビフライもヒレカツもありました。そのなかでステーキをやっていました。」
しかし、現在までの未来を予見していた一瀬社長。いずれ、ステーキの時代が来るということで商品をステーキ一本に絞った。その頃と言えば、牛肉の自由化。これは大きなチャンスになったが、それはつまり他の飲食店にとってもチャンスであった。その中でどうすれば成長するか、考えた末に一つの結論に至る。
「美味しいもの=厚切り」
一方で、厚切りにすると当然値段は高くなる。しかし一回食べれば、「旨い!こんなの食べたことない」と感動体験をもたらす自信はあった。加えて、そうすればリピートしてくれるという確信もあった。
タケ「なぜ肉を安く?」
一瀬「お客様の喜びは我々の喜びになります。ビジネスは相手に勝たせることが自分の勝ちに繋がります。これは真理です。」
しかし、タケの中に疑問が浮かぶ
タケ「なぜここまで肉にこだわったのですか?」
一瀬「自分が大好きなものを売るのが一番大事。さらに自身に魅力のない商品は売ってはいけない。好きじゃなかったら売らない。」
その言葉はブレることなく、週3~4でステーキを食べている一瀬社長。このインタビュー後にも300グラムのステーキを豪快に切り分けては頬張り、あっという間に平らげ、取材班を驚かせている。
◆なぜ”いきなり”?なぜ”立ち食い”?
ペッパーフードサービスの一瀬社長は、2013年に「いきなりステーキ」を開業。ここでの立ち食いスタイルが注目を集めた。実はこの店名には一瀬社長の持論が込められていた。
一瀬「ステーキを食べるときの、一番おいしい食べ方。それはお腹ペコペコの時、いきなりステーキをほおばる。これが一番旨いんです。」
タケ「なぜ立ち食いなのですか?」
一瀬「立ち食いの『俺のイタリアン』が出てきて衝撃を受けました。」
世の中のいいものを採用する一瀬流。実行するにしても、大切なのは単なるモノマネではなく、それをどうアレンジするか。そこで一瀬社長はこんなことを考えた。
一瀬「ステーキを立ち食いした方が似合う。ぴったりだと直感で思いました。」
立ち食いでやるということは値段を下げないといけない。立って食べても価値があると思ってもらわないといけない。そこでこんな仮説を立てた。
一瀬「赤坂で『1g=10円』で売っていた肉を『1g=5円』で売れるのではないか。平均30%程度とされる飲食店の原価率をなんと70%にして、ビジネスが成り立つのか?という仮説です。」
しかし、そこにはこんな信念があった。
一瀬「ステーキ屋なら美味しいステーキがあればいい。」
絶対にうまくいくと確信していた。続けてこんな持論も展開する。
一瀬「人間の本能を刺激するビジネスは強い。『食いたい!』という気持ちが強ければいいのです。」
◆起業と経営理念
ペッパーフードサービスは、「ペッパーランチ」「いきなりステーキ」以外にも、10以上の肉料理のお店を出店している。これを受けてタケが、起業とその成功の秘密について聞いてみた。
タケ「起業して成功する人もいれば、失敗する人もいます。その差は何でしょうか?」
一瀬「諦めるか否か。やってみてそんな簡単に上手くはいかないのですが。」
しかし、やっていく中で諦めたり、他のことを始めてしまい深みにはまってしまうこともある。もちろん、起業はしないと成功しないが、必ずしも成功するとも限らない。それについてこう答えた。
一瀬「win-win。さらに進めて、『ビジネスは相手が勝つこと』です。」
ペッパーランチは対昨年同月比で、64か月の成長を成し遂げているものの、大阪での事件やO-157騒動もあった。だが、これを経験したから今がある。
勝つまでにはいろいろなことも経験し、その反省があったから、より食べ物の扱いが慎重になったのだ。
一瀬「その事業を辞めた時が失敗で、辞めなければ失敗にはなりません。そして素直な人は成功します。それは人の喜びが自分の喜びと感じられるような人です。」
こうした素直さに加え、困難に当たったとしても、明日のことは考えず、それよりもずっと先のことを考えているのだという。創業者らしい前向きな考えである。
◆一瀬イズム
インタビュー中、タケは今の一瀬社長を社長たらしめる言葉について聞いてみるとこう返ってきた。
●「自分さえよければいいはダメ」
親の教えだというこの考え。これがなければ、前述のWIN-WIN、一歩進んで「ビジネスは相手が勝つこと」という考えにも至らなかっただろう。
●「決意は自分との約束である」
人との約束は反故にしない。しかし、禁煙やダイエットなどの決意は皆途中で辞めてしまう。そして、決意を止めると、自信が無くなる。
さらに、ペッパーフードサービスの一瀬社長が大事にしている言葉が「馬上行動」。社内報のタイトルでもあるが、「スピード感をもって、走りながら考える」という意味である。そんな一瀬さんが20年以上、自ら手掛けている社内報への想いとは?
一瀬「きっかけは、倒産寸前だったことです。」
じり貧状態でありながら、対外的に「この会社は元気だ」とアピールすべく大決起大会を盛大に催した。もちろん完全なるハッタリである。しかし、そこには大勢の人が集まり、そこで今後の展望を話した。そして、そこではとどまらず、その時の想いを、社内報にした。
記事を集めて、写真を挿入、69号まではすべて自分で作ったという社内報。
一瀬「もし途中で出せなくなったら、この会社は倒産する。みんなにそう言いました。」
決意は自分との約束。人に言わないと都合で変えてしまう。だからそれができない環境を作り、社外にも配った。大変だった時のことを振り返れる。そしてこれを続けたから一部上場できたといっても過言ではないと振り返っている。
◆目指せ日本一
飲食店をやる以上、独立し社長になりたいと考える人も多くいる。そこに「社長システム」なるものを導入したペッパーフードサービス。これは、店長を務める社員が一度退社し、改めて会社と契約。そこで、社長として店舗を仕切るシステムである。
タケ「このシステムの意義は何でしょうか?」
一瀬「社長になりたいという夢を実現できることです。こうすることで眼の色変えて一生懸命取り組んで、間違いなく収入が増えます。これが社長システムの特徴なんです。」
独立を希望する社員を社長として雇用しているペッパーフードサービス。では当の一瀬社長はこの会社をどうしたいのだろうか?
一瀬「外食産業で、日本一働きたい会社にしたい、と4~5年前から思っています。そして言ったらその通りになるがウチ流です。」
今は働く喜びを感じ、余裕ができており、「一番元気がある会社」とも外からは言われている。
タケ「では次なる野望は何でしょうか?」
一瀬「日本一、給料を払える外食産業の社長になりたい。ひとりひとりが社長代行の気持ちで働いたら、人手不足は解消しますよ。」
人手不足に対して、機械化ではなく、人が人にサービスするのが一番いいとも語っている。従業員が安定して働ける職場、そこにしっかりとお金を支払うことで、飲食店本来の暖かいお店づくりに尽力しているのだそうだ。
ペッパーフードサービスの躍進の秘密、そして一瀬社長の正体。それは、「大好きなもの、自信のあるものを売る」「本能を刺激するビジネス」「ビジネスは相手が勝つこと」などから見える、素直にストレートで勝負する姿勢であった。これだけの急成長を続ける企業なので、バッターボックスで変化球を待っていた取材班は、思わぬストレートに隙を突かれてしまった。もとい、ミートし損ねてしまった。