文化放送・The News Masters TOKYO『マスターズインタビュー』。今回のインタビューのお相手は、高倉町珈琲会長・横川竟さん。ファミリーレストランでお馴染み「すかいらーくグループ」創業者の一人で、すかいらーく社長を退任された後、75歳で高倉町珈琲を創業。
すかいらーく時代、セントラルキッチンや雨の日の傘袋など飲食業界のみならず、日本のライフスタイルにまで影響を与えた人物は、今何を思い新たなスタートを切ったのか!?プロゴルファーで、The News Masters TOKYOパーソナリティのタケ小山が聞いた。
◆日本初のファミレス誕生秘話
横川会長は、中学卒業後に築地の食品問屋に就職。築地で4年働いて得た教えが、その後の経営人生全てを支えた。
タケ「その教えの中で最も骨になっている部分は?」
横川「お客さんが欲しいものを売れ。だから、君が売りたい物、店にあるものは売らなくていい。なかったら仕入れて来い。」
簡単なようで難しい。タケも思わず「う~ん」と唸る。60年以上経過した今でもこれは変わらないポリシーであり、何をやってもお客の意見をどれだけ聞いて経営に入れて行けるかということが当時から変わらないスタイルなのだ。
レストランでは料理が美味しくなくてはならないが、それ以外の要素も必要で、例えば駐車場があるか、店内が明るく綺麗か、接客がいいか、家庭で食べられないものがそろっているか。お客様が困っていることをどう解決するかが価値を作るのだ。トイレに綺麗な壁紙をつかって評判がよくなったこともある。これらは全て売り物、レストランは料理だけ良ければいいと思っているうちはダメ。
元々は、兄弟でスーパーマーケットを開店した横川会長。経営はうまくいかず、資金をなんとか捻出し背水の陣で次に挑んだのがすかいらーくだった。
当時は、高度経済成長期。すかいらーくに家族で訪れたある小学生が、「夏休みにすかいらーくでお子様ランチを食べて、生まれて初めてこんなに美味しいものを食べた。幸せだった。」という作文をクラスで発表した。
これで評判が広がり、子供達はこぞって親にすかいらーくに行くことをお願いし、親子ですかいらーくにお客が来るトレンドが生まれた。元々は憩いの場、コミュニケーションの場として作られたすかいらーく。高度経済成長期は、各家庭のお父さんが仕事に精を出し、ほとんど毎日遅くなるまで帰ってこない時代。
働きづくめで、どこにも連れて行ってあげられないが、「すかいらーくなら行ける」ということで、早く仕事を切り上げて、家族ですかいらーくに行くという社会現象も起きた。これがファミレスの由来であり、原点。横川会長も「ファミリー層のマーケットや外食産業の始まりになったのではないか?」と語っている。
◆これからの時代はカフェがくる!
こうしてすかいらーくがファミレス業界のリーディングカンパニーへと昇って行ったのだが、その後退職し続いて立ち上げたのが、この高倉町珈琲。横川会長は、なんとその時75歳。
タケ「なぜ、75歳で起業したのでしょうか?」
横川「75歳であるかどうかは関係ないです。カフェにしたのは、これからこういうところに人が集まるだろうと思ったから。カフェって気楽に行ける名前なんです。レストランは食べなきゃいけない、喫茶店はお茶を飲まないといけない。カフェはなんだかよくわからないから何があってもいい。」
今の外食業界では、不振店をカフェにシフトしている店がたくさんありそれが成功している。売り物をコレと決めるのではないことが大切なのである。
タケ「店名には高倉町”珈琲”店と書いてあります。カフェとは書いていないですよね?いいんですか?」
横川「本当はいけません。これから変えます。でも、名前は何でもいいんです。」
店の名前は、時代とともに変えてもいい。しかし、ブランドとして「高倉」がしっかりしてればいい。そのうち「高倉」といえばお客に伝わるようになる。品質がブランドを作るのであって、ブランドが商品を作ってるわけではない。
高倉町珈琲を立ち上げた75歳、引退という選択肢もあったはずだが、仕事の方が面白いと考えた横川会長。引退して行う趣味は自己満足でしかなく、周りから評価を受けない。そう考えて現在の道を選択した。そして仕事を続けているのには、やり残してきたことがあるのだという。
すかいらーくを作った当初は面白かったが、徐々にコストカットの手が及び、楽しさが減っていたと振り返る。利益を追求するとコストを削る。コストを削ると楽しさは失う。
横川「コストを削って良くなった店はありません。」
ジョナサンは、コストをふんだんに費やしており、楽しかったのだが、コストカットの会社と合併してしまった。そこが悔しいため、今もう一度リングに上がったのだ。何もかも限界までかけて、時間もかけてお客さんに理解してもらい、初期は赤字だったものの、徐々に業績も良くなってきた。
◆今後生き残るお店とは?
30年ほど前には15万店ほどあったという喫茶店。しかし、ファストフードやファミレスの登場によりその数は7万店弱まで減少。競争が激しさを見せる中、横川会長は今後の業界の行く末をどう見ているのか?
タケ「これから残るお店とはどんなお店でしょうか?」
横川「3年後くらいにふるいにかけられます。残るのは、安さが売りの店1社と安さ以外の価値を持った店。」
タケ「高倉町珈琲はどちらですか?」
横川「高倉町珈琲は価格で勝負してないです。価格も重要ですが、優先度的に4番目とか5番目です。価格を最初に持って来ると価格以外の価値に気を付けなくなります。安くするのは誰でもできるけど、他のことは手間がかかるしわかってもらうのに時間がかかる。これに耐えなければいけないんです。」
そのふるいに残るためには、例えば10品なら10品、他の店より上でないといけない。コーヒーは負けてないか?パンケーキは負けてないか?とみていって、総合の点数で勝てばいい。
タケ「喫茶店でもコーヒーだけじゃダメだってことですね。」
横川「コーヒーだけ売っていると、お店は潰れてしまいますよ。」
15万あった喫茶店が7万になったのはコーヒーだけ売っていたから。故にファストフードやファミレスの前に屈したと会長は分析している。
主婦だけでなく、家庭や会社に疲れた旦那も気楽にここに来られる憩いの場所、それがこの高倉町珈琲だ。取材した平日の午前中は主婦が多く、5人ほどの主婦のグループがいくつも来店していた。そのことをタケが指摘するとこう返ってきた。
「主婦に支持されないとほぼ失敗しますよ。」
主婦に人気の商品とともに、家庭でできない味を作るのかが商品開発のコツ。家庭と同じものならスーパーとコンビニ、家庭の味を超えるのが最低条件とも言える。
◆高倉町珈琲のこだわり
飲食業界を常にリードし、日本人のライフスタイルにも影響を与えてきた横川会長。高倉町珈琲のこだわりはどんなところにあるのだろうか?
タケ「こだわりって言うとどこでしょう?」
横川「こだわりといえば、例えば椅子の質です。長く座っても疲れないようにクッションの厚さとか背もたれの角度を気にしています。」
パソコンを触っていても井戸端会議をしていても疲れないように。トイレも「ホテルのトイレに負けないように」と従業員に言い聞かせている。一人入れば汚れるのがトイレ。「暇があったらトイレに行け」も横川会長の教えだ。
料理の面で言えば、第一にパンケーキ。「値段は気にせず日本一のパンケーキを作れ」と言っている会長。値段は安くはないけど、満足度はどこよりも高く、どこにも負けない。では、負けは何を意味するのか?
「チェーンは1店舗が負けると全店舗が負けます。逆に1店舗が勝てば全店舗で勝てる。負けるならやるべきではないです。」と力強く語る横川会長。勝ちも負けもチェーンでつながれているというわけだ。
店だけ作って価値を作ってないチェーンが赤字を出している。ブランドは自分で価値を高めて行くものなので名前はどうでもいい。名前の価値は働く人たちが作って行くもので、「高倉」でも「高倉町」でも何でもいい。一歩進んでお客から「あそこいこうぜ」で伝わったら一流なのだ。
売ってるものにはこだわるが、他にはこだわらない。しかし売っているものは料理だけではない。綺麗さや接客も含めて、売り物と言える。
◆外食産業の今後と夢
お店で買って家で食べる中食が、今急激に伸びており10兆円市場ともいわれている。これまでとは立場が変わってきた外食産業について、横川会長はこのように見ている。
「外食比率は高まっているけど食堂的役割の店が増えて『楽しむ』外食は少ない。安い店は増えているけど『美味しい・楽しい』店がほとんど無い。」
お客が何を楽しみにお店に来るのであれ、業界的に気をつけなければいけないのは食堂的ではない役割にウェイトを置かなければ今に外食の良さがなくなってしまうと危惧している。
メーカーは保存食、コンビニは保存食とすぐ食べるものを売っている。一方で外食は、オーダーメイドのため、防腐剤も、増量剤も着色料もなく自然のままの素材で作ることができる。これが外食の強みなのであり業界のトップがこれを意識してやらなければ消費者から見捨てられてしまう。高倉町珈琲は現在それにトライしているのである。
では意識してるお店はあるのだろうか。「ライバルはいますか?」とのタケの問いにこんな言葉が返ってきた。
横川「ライバルはいないです。カフェじゃないから。カフェをやっている店は高倉を気にしているかもしれないけど、高倉は他を気にしていません。気にするべきはお客様。外を気にすると失敗するんです。他の真似をする店が1位になったことはないんです。」
今後については、「自分で言っていることをきちんと実現させる。みんながあの会社の真似をしよう!となったらそれがゴール。」と答えてくれた。
飲食業界のみならず、そのほかのビジネスにも当てはまりそうな金言が多数飛び出した今回のマスターズインタビュー。あなたは、外を気にせず、お客さんの方を向いて価値を作れていますか?