浜美枝のいつかあなたと

毎週日曜日
 9時30分~10時00分
Mr Naomasa Terashima Today Picture Diary

寺島尚正 今日の絵日記

2024年11月25日 スタート前のフィニッシュライン

「感動」それは誰もが好きなものである。

24日日曜、「マラソンで感動」した出来事があった。
24日、晴天の下、第13回富士山マラソンが行われた。
富士山マラソンは、紅葉の時期に富士山を眺めながら、河口湖から西湖を巡り再び河口湖に戻ってくるコース。
以前参加したドイツ選手は、「世界で最も美しい景色のレース」と賞賛したそうである。

今回小生は進行という立場でお手伝いをした。
フルマラソンだけで5000人を超える参加者。
驚いたのは、参加者の6割が外国人ランナー。
特に多かったのが台湾の集団だった。
ほぼ皆ルールを守りベストを尽くしながら楽しんでいた様に見受けられた。
大会は、6時間という制限時間が設けられている。
3時間台、4時間台にフィニッシュできる力を持つランナーは問題ないのだが、もっとスピードの遅いランナーが大半である。
一方、公道をランナーが走るため6箇所に関門と呼ばれる時間制限のかかった場所があり、決められた時間までにその箇所を通過できなければ、その時点でレースを続けられなくなってしまうのだ。
参加費を出してこの仕打ち。
しかし、選手はそれを承知で申し込んでくるのである。
やっとの事で最後の関門を突破すると、後およそ5キロ。
これまで走ってきた37キロに比べれば(フルマラソンは42.195キロ)短い距離と思いきや、選手の多くは、すでに体力の大部分を使い果たしている。
それでも踏ん張って動かなくなった足をだましだまし、フィニッシュ地点を目指す。
楽しさなんぞ何処へやらだ。
疲労や苦痛と闘いながらそれでも進んでいき、緩くいカーブを曲がるとフィニッシュラインまで約50メートルとなる。
ここまで来ると、選手は、皆、安堵の表情を見せる。
口元がほころび、ラストスパートをかける。
仲間と走ったランナーは、手を繋いで同時ゴールで締めくくる。
気分が更にハイになるのだ。
実はここが一番危険なのである。
緊張が緩んで気持ちだけもっと速く走ろうとする。
体力特に足は限界を超えている。
ゴール手前で足が吊ってしまうのだ。

今回もフィニッシュライン手前30メートル。
50代くらいの長身男性ランナーが口元をほころばせ、スピードを上げた瞬間、左太腿が痙攣を起こした。
何とか転倒は免れたが、左足が痛みと共に動かなくなった。
焦ったランナーは、左太腿を揉んでみる。
沿道の応援者は固唾を飲んで見守っている。
ランナーは深い呼吸を3つして悪夢を取り払おうとした。
そして左足を前に出そうと試みる。
やはり痛くて動けない。
今度は力任せに拳で腿を叩く。
「おい!左足!あと30メートルだけ動けよ!何でこうなるのだ・・」
一か八か、刺激を与えて筋肉がほぐそうとしている。
彼の表情や動きが、気持ちを物語っている。
それから1分、ゆっくり足を動かす。
2歩動いたところで、苦痛に耐えられなくなり足を止めた。
河口湖湖面から冷たい風が吹き始め、更に体温を奪っていく。
もうこれはリタイヤか、沿道の人達も諦めかけた時、
「う~~」男性ランナーが唸ったと思いきや、最後の挑戦と腹を括り兎に角、無事な右足を無理に進めて、左足に構わず前へ動き始めたのだ。
その形相は「不動明王」を彷彿とさせた。
ふがいない自分への怒り、一方でアクシデントにへこたれない強さ。
彼にとっては、正に人生をかけた瞬間であったに違いない。
どうしてマラソンでそんな無茶をするのか・・。
端から見ればそう思う。
しかし、その人にしか分からない意地がある。

彼の行動は数分であったが、沿道の女性数人は目にハンカチを当てていた。
50代のランナーは、優勝したわけでもなく知り合いでもない。
でも見守る人達は、感動し、極まって落涙したのだ。
目標に向かって「諦めずに頑張る」事は感動を呼ぶのである。
今頃、当のランナーはどんな気持ちでいるのだろうか。
案外ケロッとしているのかしらん。

スタート前のフィニッシュライン
スタート前のフィニッシュライン

溜息が出る美しさ
溜息が出る美しさ

河口湖駅の帽子
河口湖駅の帽子

炎の如く
炎の如く

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