寺島尚正 今日の絵日記
2024年10月28日 欲張りな色彩
木々の葉が色を変え始めた週末、駅の上りエスカレーターに乗っていた時のことである。
比較的利用する人が少ない時間帯だった。
いつものようにエスカレーター左側で手すりにつかまって前を向いていた。
私の5段くらい先に40代位であろうか、パンツルックの女性が立っている。
下の方から靴の音がした。
そして70代位の男性が私に並び、右側から追い抜いて行った。
急いでいるのか足早だったが、私を追い越して3段の所で躓き金属製の段に手をついた。
幸い怪我はなかったようだ。
一方私は男性が倒れた際、落ちてきた時のために身構えた。
エスカレーターで転倒すれば他の人に迷惑が掛かると改めて感じた。
数年前から都営大江戸線の新宿駅エスカレーターでは、
「エスカレーターを駆け上がったり駆け下りたりするのは止めましょう。2列に並んでご利用下さい」
とアナウンスを流し続けている。
しかし、大半の人が気にも留めずエスカレーター右側を歩いていく。
なぜエスカレーターは歩いて移動するのが危険なのか、改めて調べてみた。
まず専門家は「エスカレーターは時間短縮のためにつくられた乗り物ではなく、階段を歩くことに支障が生じる方などが楽に移動するためにつくられたものです」と説明する。
エスカレーターは歩行しての利用を想定して設計されていない。
建築基準法が定める通常の階段よりも蹴上げが大きく、つまずいたり踏み外したりする危険性があるのだ。
駅の階段は踏み面(ふみづら:奥行き部分)は30cm以上、蹴上(けあげ:高さ)16cm以下。
エスカレーターのステップの高さ(寸法)2人用は幅が約120センチ、踏面・奥行きが約40センチ、1段の高さ(蹴上)が約20.5から23.5センチ,平均22センチである。
駅の階段と比較しても、蹴上・高さが、階段より6センチ高い。
つまり上りエレベーターを歩く場合、6センチより足を上げて移動していくことになる。
普段階段の高さに慣れている人が、エレベーターの蹴上の高さに直ぐに適応出来ないのは当たり前とも言える。
またエスカレーターのステップの横幅はメーカーによって異なるが、大半は二人乗り用がステップ幅100cm程度。
一方、日本人男性の平均的な背肩幅は44cmとされていて、衣服の着膨れなどもあるためこれ以上の数値となる。
また、安全に歩行するために必要とされる通路の幅は、1人あたり最小60cmとされているため、エスカレーターの場合は十分とは言えない。
後ろから歩いてきた人がほかの利用者や荷物にぶつかった場合、バランスを崩したり荷物が落下してしまうなどの恐れがあるのだ。
また、バランスを崩し転倒・転落することにより、ステップ周りの隙間や降り口部分にほどけた靴ひもやゴム製の靴、衣服などが挟まったりすると、大きな事故につながる恐れがある。
さらにエスカレーターには、危険防止のため、異常を検知した際に自動的にエスカレーターを緊急停止させる安全装置がついている。
安全装置の作動や停電などでエスカレーターが急停止した場合、バランスを崩し、転倒・転落する恐れがある。
一般社団法人日本エレベーター協会が5年ごとに実施している「エスカレーターにおける利用者災害の調査報告」によると、エスカレーターでの災害は2年間で1550件も発生しているというのだ。
その主な原因としては、歩行による転倒や、手すりにつかまらなかったことによる転倒といった、「乗り方不良」が全体の5割超を占めている。
歩行は、本人が足を踏みはずす危険以外にも、第三者に身体や荷物が接触することで、転倒・転落させてしまう恐れがあるのだ。
またいくつかのシミュレーションにより、両側で立ち止まって乗るほうが効率のよいことがわかっている。
しかし、実際の生活で、この結果をどう広めていけば歩行者が減るのか試行錯誤中だ。
日本エレベーター協会は、製造会社はエスカレーターで人が歩くことを想定していないという見解。
自分のためにも周りの人の安全のためにも、エスカレーターのルールを守り、快適な生活に役立てたいものである。