浜美枝のいつかあなたと

毎週日曜日
 9時30分~10時00分
Mr Naomasa Terashima Today Picture Diary

寺島尚正 今日の絵日記

2023年11月20日 想い出の店

週末、所用で久しぶりに文化放送旧社屋があった四ッ谷に行った。
小生、2006年の7月24日に今の社屋(港区浜松町)に移転するまでは、正確に言えば内定を貰った1980年(昭和55年)から
約四半世紀を文化放送の住所・新宿区若葉1-5で過ごしてきた。
跡地には、賃貸マンションが建っているのは知っているが、その周りは変わったのだろうか。
金曜の午後5時半、JR四ツ谷駅で降り、旧社屋に向かって歩き始めた。
先ず確かめたかったのは、思い出の場所、あの喫茶店は今でも営業しているのか。
それは80年の秋、私が文化放送の最終試験を受けた後、余りの緊張で喉がカラカラ、どこかで休息をとろうと入った店「珈琲ロン」。
当時学生の私は、喫茶店といえば高級で、トースト食べ放題という深夜喫茶に
仲間とチャレンジする以外に利用することなど殆どなかった。音楽喫茶に通う友人はいたが、1人で入った経験はない。

そんな自分が、飛び込みで「ロン」に入ったのだ。
その日、私の他アナウンサー最終選考に残った5人は皆年上で落ち着き払い、
中には「御社に入るため2年就職浪人をしました!」という情熱的なお兄様もいた。
木枯らしが吹けば聞こえなくなるような私の声と違って、他の受験生は、台風の中でも30メートル先の人に届く位声が大きかった。
そんなプレッシャーの中、何とかやりきり、社屋を出て駅に歩く途中で力尽き入った店である。

中に入ると同時に珈琲の良い香り。
本当はソーダ水が欲しかったけれど、辺りを見渡すと、ネクタイ姿のサラリーマンが談笑し、別のテーブルでは初老の男性が文庫本を読んでいる。
それぞれが手にする飲み物は珈琲以外の物をは見当たらない。
看板にも「コーヒー」と謳っているくらいだから、ここはコーヒーにしておこう。
1分も立たないうちに、お冷やを持って20代の五輪真弓似の女性がやってきた。

「ご注文は?」
「コーヒー下さい」
「・・・」
発音が悪かったのかな・・。
「・・・」
「あのう、コーヒー・・」
「ブレンドですか?」

そういうことでしたか・・。コーヒーの種類をご所望だったのですね。
だから「コーヒー ロン」と、わざわざ書いてあるのですね。
今では、すっかり心も太くなり、この食い違いはネタになると薄笑いする自分だが、当時は、恥ずかしさから顔が柿色になった記憶がある。
そしてお冷やを一気に飲み干した。

そして5分後、ブレンドがテーブルに置かれた。
比較的厚みのある白いカップに口をつけると、コーヒーを飲み慣れていない自分にはかなり大人の味に感じた。
これが社会人の味なのか。
コーヒーの苦みに驚いている私の所に五輪さんは再びやってきた。
そして、少し外側が汗をかいている銀のポットから水を注いでくれたのだ。
有難かった。コーヒーをちびちび、お水をゴクリ。その繰り返しで琥珀の液体をようやく飲み干したのである。

そんな「コーヒー ロン」は、駅から行くと四谷見附の交差点を渡り、新宿通りを新宿方向に進んだ左側。
角の書店を左手に見ながら2~3軒先のビル1階に入り口のあったはずだ。
辺りは、ネオンくっきりの明るさになりかけている。
四ッ谷で育った私としては時が変えた部分も見たかったのだが、夜の闇が、全てをさらけ出させはしなかった。
不安と期待で心を一杯にしながら、一歩ずつ確認しながら進んでいくと、
あった!懐かしい看板があったのである。「コーヒー ロン」
透明ガラスの入り口から中を覗くと、ほぼ満席。
それでも扉を開けると、喫煙OKらしい紫煙の空気が店内から外へ排気。
このところすっかり禁煙状態に慣れている私の鼻腔が、中に入るのを躊躇させた。
30代のちびまる子ちゃんの様な係の女性が「いらっしゃいませ~」と声をかけてくれたのだが、かなり混雑していることもあり「また来ます」と扉を閉めた。

あれから43年。「コーヒー ロン」は相変わらず繁盛していた。
再びブレンドを注文し、あの時を確かめたかったが、またの楽しみにしておこう。
その他の思い出の店は、またのチャンスに記そうと思うが、思いの他、元気に営業している明かりを確認しては、あの頃が甦る。
空を見上げると、四ッ谷はすっかり暗くなり、アルコールタイムに移行していた。

想い出の店
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角打ちの草分け健在
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昼夜お世話になった店元気です!
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家飲み用自販機見参
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