寺島尚正 今日の絵日記
2023年10月23日 秋の静けさ
週末、美味しい空気を吸おうと、埼玉県秩父市を訪れた。
車で小一時間走った場所にある神社。
日没が近づき、辺りが薄暗くなってきた時刻に参道ですれ違った女性のリュックから、高音の鈴音が聞こえた。
それがクマ除けの鈴だと理解するのに時間はかからなかった。
麓の子供達のランドセルからもチリチリ音がしていた。
聞けば、秩父市は市内の全小中学生にクマよけの鈴と笛を配布しているそうである。
冬眠時期が近付き、餌を求めて熊の動きが活発になる中、山間部だけでなく市街地にも出没し、人身被害につながるケースが相次いでいる。
クマによる死傷者は今年度、少なくとも158人に達し、過去最悪だった2020年度に並んだ。
人間の生活圏へのクマの出没が後を絶たない。
市街地で、大きな道路で、駅近くで、そしてショッピングセンターにもやってくる。
背景には、餌となる木の実の不作に加え、クマの生息域の拡大と個体数の増加がある。
冬眠前は活動が活発になるため、引き続き注意が必要だ。
秋田県北秋田市の中心市街地で19日朝、バスを待っていた女子高校生ら女性4人がクマに次々襲われた。
あっという間だったという。
クマの出没件数も増えている。
2021年に100年ぶりにクマが確認された静岡県の伊豆半島では今年も目撃情報が寄せられている。
加えてクマの生息域が広がっている。
人口減などにより耕作放棄地やクマが隠れやすい藪の増加が理由の一つとされ、2019年、クマの生息域は03年度比で約1・4倍に拡大したという。
クマの個体数も増えている。
クマが増えた理由について、専門家は1990年代以降の自然保護意識の高まりにより、過剰な駆除から共存を目指して抑制傾向になったことを指摘する。
専門家は、クマと遭遇しないためには自治体ホームページなどで出没情報を確認することが大事だとする。
「クマよけ」の鈴はキーンと高い音が鳴る釣り鐘型のものが効果的で、クマの活動時間帯は明け方や夕暮れ時ということも覚えておきたい。
クマと近距離で遭遇した場合、ホームセンターなどで数千円から売られている唐辛子成分が入ったクマ撃退スプレーも有効。
射程は約5メートルの製品が多く、とっさに使用できるよう練習するのがいいという。
至近距離の場合はうつぶせになって首を両手でガードする。
「立った状態で襲われるのが一番危ない。首や頭を狙われ、重大な事故につながる」と注意している。
各自治体は、市街地に現れる都市型クマ(アーバンベア)など、クマを人の生活圏に寄せ付けない対策に力を入れている。
福井県永平寺町では、クマにGPSを付けて行動範囲を把握することで被害を防ぐ試みを実施。
北海道は今春から、市街地が危険だとヒグマに印象づける目的で冬眠明けのクマの捕獲を始めた。
秋田県は「地域の実情に応じて、クマも指定管理鳥獣にしてほしい」と国に求める。
指定管理鳥獣のシカやイノシシは、国の交付金をもとに計画的に駆除しているためだ。
専門家は「人里周辺に現れるクマには、定着させないための追い払いや駆除捕獲について検討すべき。国による財政支援も必要だ」と指摘する。
金木犀の香りと共に、鈴の音が秋の空気にそっと寄り添っていた。