寺島尚正 今日の絵日記
2023年7月31日 いにしえから学ぶ
こちらを記している30日(日)の東京都心は午前中から35℃を超え、1週間連続の猛暑日である。
この先も晴れて35℃以上となる日が多く、これまでの年間の最多・猛暑日日数16日を超える見通しだ。
猛暑、酷暑という言葉にすっかり慣れてしまっている昨今。
先人達は、ここまでの猛暑はあまり経験しなかっただろうが、扇風機やクーラーも無く、さらに風も無い場合、どうしていたのだろう。
旧芝離宮恩賜庭園へ9時の開園と同時に行ってみた。
樹木の方から元気なセミの声が聞こえる。これは暑さを助長している。
入園料150円を払った際、小さな団扇を手渡された。
そうだ、先ず、団扇があった。
早速、扇ぎながら日向を進む。風は皆無。
左手には池。水面の色は藻の緑、あまり涼やかではない。
時折、大樹が陰を作ってくれていて、木陰に入るとほっとする。
改めて夏の直射日光パワーに恐れを感じる。
この時期、庭園内の色は、緑が8割。
違うのは、サルスベリのピンク、ユリの白、加えて桔梗の薄青位である。
一回りして藤棚を見つけベンチに腰掛けた。まさにオアシスである。
開園から間もなくで、藤棚には私しかいない。
棚を見上げると、藤が蔓を伸ばしながら葉を付け、屋根の役割を果たしてくれている。
藤のおかげで日向と5度くらい違いそうだ。
そこに一陣の風。風鈴が「リンリン」と涼しさを奏でる。
棚の四方には鉄製の風鈴が下げられていたのだ。
暑さによって毛羽立ち始めた私の気持ちを、ひんやり冷たいおしぼりで拭いてくれた清涼感があった。
これだ!音の力を借りて涼しくなるのもひとつの手なのだ。
古来より先人たちは、自然界に存在するヒーリングパワーや音をうまく利用してきたと聞く。
近年、「1/fゆらぎ」などと注目されている。
これは、「不規則的」なものと「規則的」なもののどちらの要素も程よく兼ね備えていて調和され、心地よく快適な気分になる音や感覚のことを指すという。
不安にもならず、退屈にもならないゆらぎである。
特に自然界に多く存在し、小川のせせらぎ、雨音、風鈴の音、ヒグラシの声、スズムシの声、そして心臓の音なども"1/fゆらぎ"の代表例だ。
人工的な音とは違い、どこかノスタルジックで心地よく、リラックス効果がある。
風鈴はいつどうやって軒に吊されることになったのだろうか。
風鈴は、もともと日本古来のものではなく、遥か1000年以上も昔、中国から日本へ渡ってきたのが由来である。
中国では、「占風鐸(せんふうたく)」という占いがあり、その音の鳴り方・風向きによって占っていた。
そして、仏教文化とともに青銅製の風鐸が日本に渡り、魔除け・邪気払いとしてお寺の軒先に吊るされるようになった。
その頃、強風は病をもたらすとされていたので、風が吹いてきたとしても軒先に吊るすことで、風鐸の音色が病を追い払ってくれると考えられていた。
こうした背景を経て、時代の流れとともに、ガラスや竹の風鈴が生まれ、いつしか音色も楽しむ文化となっていった。
「そういえば、私も持っていたぞ」
急いで戻り、仕舞っておいた風鈴を出した。
扇風機の前に吊すと「りんりん」鈴のような音で気持ちがいい。
外に吊すと近所迷惑の場合もあるので、今夜から、我が寝床で寝る前の一時しばし聴き涼むことにしよう。
風鈴の 一つ鳴りたる 涼しさよ 高浜虚子