寺島尚正 今日の絵日記
2023年5月8日 垣間見える未来 松尾 治 樹勢C
先週末、茨城県取手市にお邪魔した。
品川からだと、JR常磐線・上野東京ラインを使えば1時間かからない。
同じ東京都でも自宅がある八王子までの方が所要時間はかかる。
さらに上野東京ラインにはグリーン車が用意されているので、料金を払えばちょっとした「旅気分」が味わえるのがよい。
取手市は、水戸街道の宿場町として、また利根川舟運の要衝として栄え、茨城県の玄関口として発展し続けてきた。
歴史的な見所がたくさんあるという。
市内には、国や県、市が指定した文化財が13件ある。
徳川家康に仕え、「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな、馬肥やせ」という要領を得た簡潔な手紙の作者として知られる本多作左衛門重次は、取手に領地を得て最晩年を過ごした。
その墓が県指定文化財となっている。
さて現在、取手駅ビル アトレ4階「とりでアートギャラリー」で「とりで合同作品展」(入場無料)が10日水曜まで行われている。
駅直結の便利な場所で芸術に触れることが出来るのは嬉しい。
今回、取手で暮らす知人が、「規模は大きくはないけれど、アマチュア画家の作品はじめ、古民家の模型やプラントドール、創作人形など、ゴールデンウイークに小さな旅と優しい気持ちになれるよ」と教えてくれた。
会場に着くと、手作りの受付があり、その奥に作品が並んでいた。
入場して直ぐの右手と正面に「樹勢」という大きな油絵の作品が私の足を止めた。
特に正面の「樹勢C」年を重ねた大木の幹の間だから、逆ハート型の向こう側が見えている。
その視界が明るくて、現在の力強さに加えて、希望や未来を感じさせた。
優れた作品は、受け止める側のそれぞれの心に、何かを訴えかけてくる。
3分位作品を味わっていただろうか。
「この作品如何ですか?」と、私に優しく話しかけてきた70代の男性がいた。作者だった。名を松尾 治さんという。
油絵を始めたきっかけは「58才の時、定年後、何か趣味を持っていた方が良いと考え、絵画教室に通い始めたのです。そうしたら、面白かった!長崎出身なのですが、五島に行ったときに「この樹」に心動かされましてね。何枚も描きました。うち何枚かは故郷に寄贈したのですよ」嬉しそうに話す。
「心動かされた風景があると自然と筆が動くのです。私にエネルギーをくれる感じですかね」目を細め語る松尾さん、次はどんな風景に心を揺さぶられるのだろう。
話を聞いて私も楽しみになった。
そのお隣のスペースには人形がいくつも展示されていた。
一見すると「可愛らしい創作人形」だ。
しかし、人形作家の井川美幸さんの話を聞いて驚いた。
「この子(人形)達は、プラントドールといいます。プラント、つまり植物の枯れ葉や、葉の裏で作った人形です。よく乾燥させた植物の木の実・葉・種子・花びらで出来ているのですよ。それも自然の色や形をそのまま利用しています。一切加色していません。ですから、世界に一つしか無い人形なのです」
そう言われてよく見ると、確かに人形が纏っているスカートの模様は、枯れ葉の染みだったりする。
井川さんは続けた。
「私ね、四季折々楽しくて堪らないんです。特に秋。枯れ葉の色や模様は、1つとして同じものはないの。枯れるって、普通はあまり良いイメージではないけれど、私にとっては素敵なことなんです。枯れ葉の裏の色も立派に人形の衣装になる。どれ1つとして無駄なものはないし、この人形の衣装はバナナの葉。こちらは鉋屑でしょ。これはヘチマ。こちらのはね・・」話を聞いている私までウキウキしてくる。
松尾さんや井川さんの話を聞きながら、自然は私達に様々な事を教えてくれているのだと強く感じた。
要はどう感じるかだ。取手にお邪魔してよかった。
奮発して上野東京ラインのグリーン車に乗り込み利根川を眺めながら「心のアンテナの感度をより高めよう」強く思った。