浜美枝のいつかあなたと

毎週日曜日
 9時30分~10時00分
Mr Naomasa Terashima Today Picture Diary

寺島尚正 今日の絵日記

2022年1月17日 適切は大切

近頃、私の料理は「豆苗」をよく使う。
20年ほど前、初めて中国料理店で「清炒豆苗(豆苗炒め)」を食した。
「かいわれ大根」が突然変異で立派になった印象で、そういう味がするものと勝手に予想し口に入れた。
すると、噛めば噛む程、青臭い味が押し寄せ、知人がいなかったら出していた位、残念な記憶が残った。

それ以来、「豆苗」には苦手意識を持ち続けていた。
転機は、去年の暮れ。
親しい友人と食べ物の話をした際のことである。
友人が「豆苗、美味しいよね!卵と炒めると絶品!癖もないし、毎日でもいける」と絶賛した。
心の中で「あの青臭さが癖でなくて何なのだ。アバウトな味覚しているな」と、突っ込みを入れたが、その後、友人の発した一言が、私に20年ぶりの購入を決意させた。

「安いし2回は食べられる」
「豆苗」とはエンドウの若菜のことで、食べられるようになったのは中国で、収穫される量も時期も限られるため、一部の高貴な人やお正月など特別なときにしか口にできない稀少品だった。
日本に登場するのは1970 年代の日中国交回復以降。高級中国料理店などで扱われていたが、当時はまだまだ一般の食卓には縁遠い高級食材だったという。
中国で食べられていた豆苗は、畑に種を蒔いてある程度大きくなったエンドウの若い芽を摘み取って食べる食材だった。そのため、数が少なく、収穫できる時期も限られていた。
一方、豆苗を年間通して食べられる用にしたのが、植物工場栽培という方法。
これは、植物工場内で種から発芽させて、10~15日程度育てた新芽を食べるタイプの豆苗なのである。
このタイプの豆苗は1995年頃から日本で少しずつ栽培され、豆苗の栽培技術の革新によって、ここ数年、特に多くの数量を生産できるようになったという。

「安いし2回は食べられる」
新年2日、スーパーの野菜特売コーナーで「豆苗98円」が目に入った。
友人の魅力的な言葉が、私の頭の中で蘇った。
「新年だし、試してみるか!」
スポンジに根がついたままのそれをカゴに入れる。
帰宅し、早速調理することにした。
インターネットで調理のコツを調べ、玉子と炒めることに決定。
フライパンで多めの油を熱し、かなり高温にしたところで玉子投入。
フワフワに膨れたところで、一旦玉子を取り出す。
その後、根元をかなり残した所で切った豆苗を投入。
「強火でサッと」と書いてあったが、それよりも多めに炒めた。
豆苗を炒めている途中で、粉末中華調味料を入れ、しんなりしたところで先ほどの玉子をフライパンに戻して完成。
香りも悪くない。
手際はよくなかったが、それでも短時間で出来たのには驚いた。

そして、いよいよ食する時間に。
20年前の青臭さが蘇ってきた。
平日はお酒を飲まないと決めているので、援軍は借りられない。
我が味覚との真剣勝負である。
覚悟を決めた。
湯気の立っている炒め物、見た感じは申し分ない。
一気に行けばよいものを、我が箸が挟んだのは玉子。
「根性ないな」
自分にヤジを飛ばしながら玉子を口に。
美味しい!塩気もちょうどよい。
美味しさが続き口の中が空になった。
今度こそ、しな~となった緑のアイツの番である。
油でコーティングされ、色は生き生きしている、けれど。
箸に乗る豆苗が口まで運ばれる時間は玉子の時より長めだった。
「いやなら出せばいい。」
そして、口に。
まず、塩味とうま味が口中を幸せにした。
「ん?覚悟していた青臭さがない!あの時の豆苗ではない!美味しいぞ、懐かしいチキンラーメンの味がする」
思わぬ誤算、心の中に桜が咲いた。
友の言葉は本当だった。

それから週に1度は「豆苗」レシピ。
電子レンジで1分半の「おひたし」も悪くない。
鰹節との相性がいい。
一方で、「豆苗」に関して、更なる悩みが発生した。
ベランダに1度食した「根」を置き、毎日水を替えているのだが、3週間という時間がアイツを成長させ過ぎて、葉の先から細い髭のような「ツル」が出てきているのである。
ネットで調べると「少々茎がしっかりした食感になるが食べられる」とある。
捨てるのは忍びない。
しかし、折角仲直りした「豆苗」を嫌いになるくらいならいっそのこと、新しい「アイツ」を手にした方がよいのではないか。
そうこうしているうちに「ジャックと豆の木」のようになったらどうしよう。
どうでもよいことなのだが、結構真面目に悩んでいる今日この頃である。

 適切は大切
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