寺島尚正 今日の絵日記
2019年5月6日 時は流れている
令和を迎え、強く感じたことがある。
それは、「時は流れている」という事だ。
先日、ある高齢者施設にお邪魔し
認知症予防イベントに携わった。
イベントは、明るい音楽に合わせて
健康増進、認知症予防のため、無理のない程度に
歌って踊って体を動かしましょう、というもの。
下は70代後半、上は101歳の男女20人程、
人生の先輩が集まった。
参加したということは、皆、気持ちは積極的。
ある80代中肉中背の女性は
全員に配られた赤や青のハンカチを両の手に
円を作ったり、片方の手を上げ、もう片方を下げるなど
手旗信号を彷彿とさせる振り付けを生き生きとこなしている
しかし、中には思った通りに体が動いてくれない人もいた。
80代の細身の男性。
半世紀前はスポーツで活躍していたような体躯だ。
初め笑顔でハンカチを振っていた。
しかし曲が進んでいくうち、振りが遅れ
やがて動きを止めてしまった。
その表情には、怒りと悲しみが入り混じっている。
今でも気持ちは「若いあの頃」と同じ。
こんな簡単な動作は一回教わったら完璧にできたはず。
それが出来ない・・。
男性は遠い目をしていた。
80代ふくよかな女性は、ハンカチで円は作れるのだが
その他の動作に移れない。
それでも手本の動作に必死で食らいついている。
それは「あの若い頃の自分」に戻ろうとしているように映った。
イベントの後、80代後半の女性に話を聞いた。
「この施設は快適よ。毎日が楽しいもの。
もう、難しいことは覚えられないけれど
そういうものだと思うようにしてるの。
悩んだって、どうなるものでもないから。
今まで頑張って来たから・・。」
彼女はそれ以上言葉を足しはしなかった。
「あなた頑張んなさい!」
私にかける声が掠れた。
掠れた分、その分沁みた。
人は皆、年を取る。
そして皆、土に還っていく。
進み具合に差はあれど結果は同じ。
大切なのは、折角の人生、前を向いて
今日という日を一所懸命歩くという事。
自分に恥じぬように。
時は流れている。それは、永遠ではない。
挨拶を済ませ外に出た。
辺りの喧騒を優しい雨が遮っていた。
「時のある間にバラの花を摘むがよい。
時は絶えず流れ行き、
今日微笑んでいる花も明日には枯れてしまうのだから。」ヘリック