浜美枝のいつかあなたと

毎週日曜日
 9時30分~10時00分
Mr Naomasa Terashima Today Picture Diary

寺島尚正 今日の絵日記

2019年1月15日 目指すものは何ですか?

「言葉」というものは、両刃の剣だと、ある会見を見ていて考えさせられた。
先日の、レスリング女子、吉田沙保里さんの現役引退会見のこと。
オリンピック3連覇、世界選手権13連覇を果たし、
国民栄誉賞も受賞した36歳の吉田沙保里さん。
さおちゃんと、周りからは呼ばれているそうだ。
会見のさおちゃん、チャーミングな女性だった。
試合の時は、闘争心を前面に出し、怖いくらいだったのにである。
まず、言葉が人の背中を押すエネルギーになった話。
吉田沙保里さんがレスリングを始めたのは3歳時だった。
ご両親の影響でレスリングを始めた。
初めての試合は5歳の時。男女混じった試合で
さおちゃんは、男の子に負けた。
優勝した男の子は表彰式で金メダルを首にかけてもらった。
さおちゃんは、コーチであるお父さんに
「私もあのメダルが欲しい」とねだった。
お父さんは言った。
「あのメダルはね、スーパーでは売っていないんだよ。
でも、あのメダルは、金メダルは、
さおちゃんがうんと頑張って強くなったら、きっともらえるものなんだ。」
そこから、さおちゃんはうんと頑張った。
もちろん、本人の素質、コーチであるお父さんの指導も群を抜くものがあったのだろう。
しかし、何より、お父さんの、「うんと頑張ればメダルがもらえる」
この一言が、さおちゃんの「やる気」に火を点けた。
素直な5歳の心に、全てをスポンジの如く吸収する心に希望の火が灯ったのだ。
厳しいけれど大好きなお父さんが言った言葉だからこそだった。
さおちゃんは、とにかく練習に励んだ。
さおちゃんは、決して器用ではなかった。
同じ練習を何度も何度も繰り返し、強くなっていった。
そして、中学生の時、さおちゃんは柔道のヤワラちゃん、谷亮子選手に憧れ、
レスリングでオリンピックに出て金メダルをとりたいという夢を持った。
そこから、まだレスリング女子が正式種目にもなっていないのに、
オリンピックに出たいという強い思いが、彼女に夢を与えてくれた。
やがて、レスリング女子が正式種目となり、現実のものとなる。
自身が初めて出場したアテネオリンピックで、念願叶い谷選手に会った。
選手村の部屋を訪問し、金メダルを手にとって見せてもらった。
自身も夢に見た「金メダル」首にかけた。
「うんと頑張って、強くなれば。」
お父さんが言った言葉に嘘はなかった。
一方で、言葉が傷つけるという事。
吉田沙保里さんの会見後、お母さんが会見した。
その際、吉田さんの代名詞ともいえる「霊長類最強女子」との愛称について
「どなたがつけたのか?"霊長類最強イコールゴリラ"みたい。
女性ですし、親としては『えっー』という感じだった。」
「霊長類最強女子」
強さは手に取るように伝わってくる。
しかし、呼ばれた側は明らかに喜んではいなかった。
娘が「金メダル」を獲得しても、何処か複雑な思いをしていたのだ。
言葉とは思いを伝える道具。
それは届ける相手に「元気」「勇気」「アドバイス」を与えるもので
本来「武器」ではないはず。
「わかりやすさ」や「刺激」を追求しすぎると
使う側の本意ではなく、時に「傷」を与えてしまうことだってある。
皆が笑顔になれる表現を使わねば、そう感じた。
さおちゃんのお母さんは続けた。
「でも、霊長類最強って、ロシアの元レスリング王者・カレリンさんに匹敵するぐらい強いと思われてるんだな
という意味で感謝しています。」
最後には白い歯をみせた。
お母さんの言葉は思いやりに満ちていた。
目指すものは何ですか?
目指すものは何ですか?

  • twitter
  • facebook
  • radiko
  • twitter
  • facebook
  • pagetop
Copyright © Nippon Cultural Broadcasting Inc.All right reserved.