寺島尚正 今日の絵日記
2018年7月23日 澄んだ世界
大相撲名古屋場所は、出羽の海部屋の関脇・御嶽海が初優勝した。
インタビューの際、およそ30秒、
こみ上げてくる感情で言葉を発せなかった。
角界に入り、ここまで順調に上って来た彼にも
人には言えない何かと闘ってきたのがわかった瞬間だった。
御嶽海の人生キーワードは、「湧き上がるもの」と「期待に応える」に
集約される。
まず、御嶽海が相撲を始めるきっかけとなったのは、
小学校1年の時に相撲大会に出場した際、
初めて挑戦した相撲で自分より体の小さな相手に負けたこと。
此処で負けず嫌いの魂が沸き上がり、木曽少年相撲クラブに入った。
小学校高学年から全国相撲大会で好成績を収めるようになり、
地元の高校では国体選手権で3位となった。
後に東洋大学に進学。
東洋大学には監督から「復活のために力を貸してほしい」と頼まれ入学。
力強い突き押しを武器に、個人タイトル15冠。
4年時に11月に学生横綱、12月にアマチュア横綱となった。
一方で大相撲入りは、相撲部屋へ何度も見学に行って、
厳しいということを恐れ、頭になかったという。
ここでまた期待の声がかかった。
声の主は、11代出羽海親方、元幕内・小城ノ花。
「最近10年くらい幕内力士が出ていなくて、今は名門とは言えないかもしれない。
でも、きっと再興させたいと思っている。是非とも力を貸してほしい」
正直悩んだ。事実、アマチュア相撲の強豪・和歌山県庁への就職が内定しており、
就職したら家族を呼んで和歌山で一緒に暮らすことを考えていた。
一方で、遠藤(日大)が活躍する姿を見て、
自分もあの人といい勝負をしてたんだよなぁと思ったら、
湧き上がるものがあったという。
2015年3月、同部屋から初土俵を踏んだ。
異例の速さで関取となった御嶽海。
この御嶽海という四股名には郷土の期待が込められている。
それは2014年9月27日に起こった御嶽山(おんたけさん)の噴火。
火口付近に居合わせた登山者ら58名が亡くなり、
5名が行方不明のままだ。
御嶽山に近い木曽の観光も打撃を受け、
木曽の人たちの心が沈んだ。
だから、「地域を勇気づける」思いがある。
「御嶽」の読みは、山は「おんたけ」と読むのに対し
四股名は「みたけ」と読む。
「御嶽」の読みを「みたけ」にしたのは被災者への配慮でもあるという。
そして、今場所の優勝。
インタビューの際、およそ30秒、
こみ上げてくる感情で言葉を発せなかった。
長野県出身の力士の幕内での優勝は、
年6場所、15日制となった今の制度では初めて。
出羽海部屋の力士が優勝するのは38年ぶり。
秋場所は大関にチャレンジすることになる。
御嶽海の出身地上松町(あげまつまち)は、長野県南西部に位置する
駒ヶ岳のふもとの小さな町。
町のホームページにはこう記されている。
木曽ひのきの里、上松町。
豊かな森林に抱かれた山里は、澄みきった空気と水が満ち、
爽やかな森林が広がります。
信州・木曽路の旅で、たっぷり時間を使って心身をお洗濯してみませんか。
御嶽海は、故郷の澄んだ空気や水の様に、
湧き上がる・さらなる期待に応えていくはずだ。