寺島尚正 今日の絵日記
2015年11月24日 廻り合い
大相撲九州場所千秋楽は、横綱日馬富士が2年ぶり7度目の優勝。
2015年おさめの場所は、様々あった。
力士の奮闘は勿論だが、変わった所では
立行司の第40代式守伊之助が差し違え、8日目から出場停止3日間の処分を受けた。伊之助は3日目も差し違えており、今場所2度目。
先場所10日目と合わせ、2場所で3度目の失態となった。
10日目に横綱・白鵬が奇襲「猫だまし」を繰り出した。
そして、突然の訃報
日本相撲協会理事長、北の湖親方20日夜、62歳という若さで急逝。
九州場所には初日から姿を見せ、前日までは報道対応をこなし、
取組の解説もしていたのに。
今から30年以上前、新人時代、相撲中継に携わっていた。
北の湖親方は現役の横綱だった。
「憎らしいほど強い」と言われた絶頂期からは若干下り始めていたが
それでも本場所では近寄りがたい光を放っていた。
力士の稽古は早い。
特に、北の湖関が所属していた「三保ヶ関部屋」は1番だった。
他が10時近くまで行っているところ
三保ヶ関部屋は8時過ぎには稽古を終えてしまう。
7時過ぎに部屋に行き、息を潜めて稽古を見守る。
稽古が終わると、土俵脇でしばし、リラックスタイム。
当時は、横綱の他、大関北天佑、闘竜関、播竜山関などがいた。
三保ヶ関部屋取材には必携の品があった。
スポーツ新聞である。それも3紙程。
北の湖関が大の巨人ファンで、
稽古が終わると「新聞ある?」
と私を見つけて声をかけてくれる。
暫く横綱が野球記事に目を通す。
場所中だから相撲の記事も出ているが、そこは飛ばす。
そして巨人の試合結果などで話をしてくれた。
相撲の話に水を向けても、「それでさ、ピッチャーは・・」
軽くかわされる。
横綱の麻で編んだ綱は、神のしめ飾りを意味する。
心技体、全てが備わった人物だからこその「位」なのである。
そんな横綱は、おどおどしながら脇にいる私を見て
「この若いあんちゃんも仕事で来ているのだから」
と相手をしてくれていたのに違いない。
今更ながらその厚意が身に染みる。
昭和の大横綱は、猫だましを繰り出した横綱・白鵬には
「前代未聞。負けたら横綱として笑いもの」と苦言を呈した。
相撲は勝てば良いわけではない。
何より訴えたのは強さとともに備えるべき品格なのだ。
「大切なのは土俵の充実」
この言葉を繰り返していたという。
北の湖親方、親方の優しさ、そして情熱、ずっと忘れません。
ご冥福をお祈りいたします。
相撲は、早くも「また来年」である。