寺島尚正 今日の絵日記
2015年10月5日 ひとめぼれ
今年も秋がやってきた。
季節の訪れを街の催し物で感じる時がある。
JR中央線八王子駅で降り、北口に向かう。
ペデストリアンデッキを進むと
左斜め方向に「西放射線ユーロード」が見えてくる。
八王子駅北口から八日町方面に向かう幅8ートル位の歩行者専用の道。
たくさんの店が建ち並び、多くの買い物客で賑わっている。
ここで、時折イベントが催されるのだ。
主だったものを紹介すると、
5月は八王子古本まつり、
7月は夏の風物市、植木始め、夏を彩る諸々を販売。
8月は八王子まつり、山車などが出る一番大きなイベント。
この10月は、全国大陶器市値切り市が6日まで行われている。
全国の窯元、陶器卸売業者、地元陶器店など35店舗の陶器が
ずらりと並ぶ。
全国各地の有名名産、有田焼、九谷焼、瀬戸焼、伊万里焼、常滑焼、備前焼、
美濃焼、萩焼、信楽焼、唐津焼、小石原焼、益子焼、清水焼、現川焼などの焼き物だ。
小皿100円から高級な品まで約50万点、1日居ても飽きない。
「料亭向け品、不揃いのため540円均一」
こんな売り文句を見つけたら、足が止まってしまう。
安い刺身でもこちらに乗せると美味しくなる、そんな皿には、
2800円のシールが。これが540円。
後は内なる闘い。
「これで刺身を食べたい」
「いや、去年も同じような皿買って、家族に非難されたろ」
「刺身以外にも、焼き鳥を乗せたら倍美味いぞ」
「どこにしまっておくのだ。他の客が買った方が皿は幸せだろう」
「う?む」
店を離れた。
1時間以上色々見て回った挙句、別の物を買った。
徳利とぐい呑み。
色といい形といい、美しかった。かなりの値段。
しかし買わなかったら後悔する、そう思ったのだ。
自分へのご褒美以外の何物でもない。
家には既に4つある。
家族からしてみれば、無駄としか映らないかもしれない。
複雑な気持ちが充満した。
それでも買った。
皆が寝るのを待って、使ってみることにした。
すると、こういう時に限って、ラグビーワールドカップ観戦。
あちゃ?。
作戦変更、中継の合間にトイレを装い別室でいただくことに。
700円で買った日本酒四合瓶と緩衝材を巻いたままのお宝を部屋に。
緩衝材をパリパリ破く。
青い宝が姿を現した。お宝を洗面所で清める。
酒を少しだけ徳利に移す。
瓶から徳利を経由させることで格段に美味しくなるはずだ。
そして徳利からぐい呑へ。
清らかな水の如きが器を満たしていく。
ぐい呑みを手に収める。
大きさといい重量感といい、絶妙。水面の奥には楓が見える。
心は急いている。
しかし堪えてゆっくり口に運ぶ。
秋が口に広がる。
「コクン」喉が鳴った。
「はあ」美味い。
背後で、ギーとドアが開く音がした。ありゃま、見つかった。
言い訳を考えながら振り向くと、猫だった。
安堵のため息とともに、再び安らぎが戻ってくる。
酒の匂いを嗅がせてやった。淵をチロッと舐めた。
お、お前もいける口だったか・・・。
居間から歓声が上がった。そして私を呼ぶ声。
今夜はこれにてお開き。
お前と俺の秘密だぞ。猫に言い聞かせ、残りの酒を「グビ」。
今年も秋がやってきた。