金融・住宅のプロフェッショナル大垣尚司(青山学院大学法科大学院教授)さんと、団塊世代プロデューサー残間里江子さんが、楽しいセカンドライフを送るためのご提案をお届けする番組『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』。
この記事では、「大人ファンクラブってどんな番組?」という方のために、コーナー「大人ライフ・アカデミー」をもとに作成された大垣さんのレポートをお届け。ラジオとあわせてもっと楽しい、読んで得する「家とお金」の豆知識です。
2020年6月13日の放送は、ゲストに上野千鶴子さんを招いての特別回。ポストコロナの生活について、認知症について、上野さんの「今の関心事」をたくさんお伺いしました。
上野千鶴子・・・社会学者、東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。
コロナ後は、「職住分離」から「職住一致」へ
大垣 「ニューノーマル」とか「新しい生活様式」、「ポストコロナ」といった言葉が日常的に使われるようになってきましたが、社会学者である上野先生は、社会が今後どんなふうに変わっていくとお考えですか。
上野 今は、文明の転換期なのだろうな、とは思います。
最近考えているのは、コロナ以降の社会は、徐々に「職住分離」から、「職住一致」へ、つまり、働く場所と住む場所が、一つの場所で行われるようになっていくんじゃないか、ということです。
大垣 なるほど。コロナで在宅勤務をしてみて、意外に問題なく在宅勤務ができた人も多いでしょうからね。
在宅勤務ができるなら、仕事の選択肢も増えますよね。地方に住んでいても、日本全国の会社に通勤することが可能になるわけですから。そうすると、勤務先の企業のある場所と住むところが通勤可能な地域にある必要がなくなり、結果として職住が一致する。つまり、猫も杓子も東京に出てくる必要がなくなるわけですから、今後は、選択的に地方に住む若い人たちもいっそう増えていくだろうなと感じています。
空気が読めなくても、仕事ができればいい世界に?
上野 教育も変わってきていますね。オンライン授業によって、学校というコミュニティの中では人間関係がうまくいかなかった子たちでも勉強にアクセスができるようになってきています。
いいことですよね。コミュニケーションに難があっても仕事はできる子たちって、たくさんいると思うので。
大垣 そうですね。これまでの日本社会では、仕事がどれぐらいできるか、というよりは、いわゆる「コミュ力」というか「空気を読む」力が重視されてきました。でも、在宅が基本のワークスタイルになると、求められるのは空気を読む力ではなくて、どれだけ実務的な能力があるかになっていくと思います。
僕は今、大学の教え子たちに「お前らがいい会社に就職できるのは、空気が読めるからというだけで、世界が空気を読む必要のなくなった瞬間に困ったことになるからな」って言ってやってるんですけど。
上野 それを大学で教えているんですか(笑)
誰もがかかりうる認知症、明日は我が身ですが......
残間 上野さんは最近、「一人暮らしの認知症患者がどう暮らすか」ということについてお考えになっているそうですね。コロナのこともあって、非常に重大な問題だと感じます。
上野 明日は我が身ですから。
大垣 でも、上野さんなんて、アルツハイマーから最も遠い場所にいる人なんじゃないですか。アルツハイマーにかかりづらい人というのに、高等教育を受けたことや、知的活動を続けているというのはよく挙がりますよね。
上野 それは、たんに相関関係があるというだけですからね。アルツハイマーについては、治療法も予防法も原因も分かっておりませんので、「こうしたらかかりづらい」ということは全く保証がないんですよ。
大垣 なるほど、誰でもかかるものだと。確かに、私の祖母が100歳ぐらいまで生きたのですが、最後の10年ぐらいはやっぱり認知症っぽい症状も出ていましたね。厚生労働省の統計だと、95歳の女性のうち73パーセントは認知症だそうです。
上野 認知症って、加齢に伴う現象なんですよね。「病気」だと捉えないほうがいい、と考える人もいるぐらいで。
「ピンピンコロリ」って、要するに「自己責任」ですよね
残間 上野さんが以前おっしゃっていたことでなるほどなと思ったのが、「ピンピンコロリ」という言葉についてです。これが理想の死に方になったことで、長患いする人は、自分が悪いことをしているように思い、生きづらくなってしまう、というようなことをおっしゃっていましたよね。本当にそうだなと思って。
それ以来私は、ピンピンコロリが理想です、と言っている人には必ず「言わないほうがいいですよ」って嫌味な感じでたしなめることにしています(笑)
上野 それはとても教育的だと思います(笑)
そうなんですよね。私たちは誰でも、いつ病気にかかってしまうかなんて分からないわけです。寝たきりだってアルツハイマーだってコロナだって、別に好きでなるわけではないでしょう。
そういう人に対して、運動してなかったからとか、知的な作業をしてなかったからとか、メタボになったからとか、要するに、「自分の節制が足りなかったから自己責任だ」と言っていると、いざご本人が寝たきりになったときに、自分が辛いじゃないですか。
大垣 確かに。コロナ渦の今だからこそ、そういう言葉は身に染みますね。この数ヶ月誰もが「コロナで倒れるのは自分かもしれない」というのを少なからず考えたでしょうから。
コロナによって、社会の問題点が浮き彫りになった
上野 コロナという「前代未聞の状況」を経験してみて思ったのは、こういう状況下においては、これまでずっと問題になってたことがより一層増幅して起きるんだな、ということです。
残間 そうですね。何か新しいことが起きるわけではなくて、コロナ以前から「このままでいいはずがない」と思っていたものが、コロナで浮き彫りになっただけというか。
大垣 そういう意味でも、今は本当に、上野さんがおっしゃったように、文明の転換期なのでしょうね。世の中には何が必要で、何が不要なのかを誰もが自分ごととして考えるきっかけになりました。
上野 つくづく感慨を覚えるのは、世の中、不要不急のものがこんなにたくさんあるんだねっていうことで。研究者も不要不急かもしれませんよ、大垣さん。
大垣 自分では要で急な研究をしているつもりなんだけどなあ(笑)
大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ
◆放送日
土曜 6:25~6:50
◆出演者
大垣尚司(青山学院大学教授・JTI代表理事)
残間里江子(団塊世代プロデューサー、club willbe代表)
鈴木純子アナウンサー