常にポジティブであれ! 〜なでしこジャパンを世界一に導いた名将・佐々木則夫前日本女子サッカー代表監督が教えてくれた大切なこと〜
文化放送「The News Masters TOKYO」のマスターズインタビュー。パーソナリティのタケ小山が今回お迎えするのは、サッカー女子日本代表なでしこジャパンを2011年ワールドカップ優勝に導いた佐々木則夫監督(当時)。率いるチームを「勝てる組織」に育てるために最も大切なこととは何か? 当時を振り返りながら、"世界一になるため"のリーダーシップの在り方をタケがじっくり探ります。
●世界でNo.1になれた理由
「世界一になることができた最大の理由は、彼女たち自身がチャンピオンになりたいという気持ちになれたこと、そしてきっと世界一になれると自分たち自身を信じられたことだ」と語り始める佐々木さん。「とはいえ最初から自信があったわけじゃあないですよね?どんなふうに自分を信じる心が育っていったんだろう?」そう問いかけるタケに、「そうですね」と佐々木さんもうなづく。
「2008年の北京オリンピック前の記者会見でベスト4を目指すと僕が話した時、彼女たちはずいぶん戸惑ったようでした」。まだとてもそんな気持ちにはなれていなかったのだ。ベスト4どころか、予選リーグ突破さえ自信がないという。「僕は決して無茶な目標を立てたつもりはなくて、チームを見ていて必ずいけると思ったんです。チーム力に対して負のイメージがなかったから、いけるいける!と邁進していたんですが...」と少し言葉を止めて、こう続けた。「ふと気づいたら選手たちの気持ちがついてきていなかった」。
その時に、佐々木さんはこう考えた。「心を変える必要がある」。必ず「できる」ということを信じさせなければならない。実際、練習中に見せてくれるプレーは非常に素晴らしかった。「その映像を選手たちに見せて、ほら、こんなことも、あんなこともできているじゃないか」と繰り返した。「実は、ほんの少しはリップサービスもありました。すごいぞ!こんなことまでできているぞ!って」と笑う。
そして迎えたグループリーグ初戦のニュージーランド戦。格下のチームに先取点を上げられ、さらに追加点までとられて0-2となってしまった。だが、このあとなでしこたちは奮闘した。2点を取って追いつき、引き分けにしたのだ。
「この経験は大きかった。選手たちの気持ちが『できるわけない』から『できるんじゃないか』に変わったのは、この試合からだったと思う」。夢や目標は、無形のものだ。「できるかどうか」なんて、実際には誰にもわからない。いくつもの高い壁を越えなければ到達できないものだ。だが、自信を持って勝負に挑むことができたときはじめて「無形だった夢が有形のものに変わるのじゃないか」と佐々木さんは考えている。
なでしこジャパンの選手たちが「次はチャンピオンになりたい」と口にし始めたのは、このあとすぐのことだった。それから3年後、2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会でついに世界No.1の座を獲得。FIFA主催の世界大会で日本代表が優勝したのは、日本サッカー史上初めてのことだった。「ノリさん。なでしこジャパンを世界一に導いたリーダーシップを、日々闘うビジネスパーソンにも伝授してください。"勝てるチーム"をつくるために大切なこと、ぜひ教えてください!」
●勝てるチームをつくるために大切な3つのこと
その1「どこを目指すのかをしっかり伝える」
「どこに向かって進んでいくのかがわからないと、最初の一歩さえ踏み出すことができない」と、佐々木さん。自分たちは今どこにいて、これからどこへ向かうのか。何を目指しているのか。短期の目標、中期の目標、長期の目標も明確に設定する。「コツは、できる限りシンプルに目標を掲げるということです」。
「目標」と「やるべきこと」がしっかり結びつくと、大きなパワーが生まれる。また、自分だけでなくチーム全体をフォローアップしようという力も高まる。「この力は女性の方が強いんじゃないかな。スポーツ界では、いまや女性が男性を抜こうとしている。社会においても女性の力をしっかりと活かしていくべきですね」。
その2「できたことを共有する」
「どんなに小さな成果でも、できたことをチームで共有することが大事です」。試合や練習の後に選手たちに振り返りをさせると、日本人特有のメンタリティなのか「反省」ばかりを述べることになりがちだ。「反省することが立派なことだ、という気持ちがあるんじゃないか」。
反省することは大事なことだが、それ以上に大事なのは「できたことを確認すること」だ。できなかったことをあげつらうんじゃなくて、ほんの少しでもできたことを評価する。「私はできる」「私たちはできる」を、その都度チーム全体で共有することで、目標に向かって着実に進んでいることが明確に確認できる。そして、それがやがて静かな自信となってチームを育てていくのだ。
その3「チャレンジを評価する」
「メンバーがミスをしたときに、そのミスをリーダーがどうとらえるかでチームのムードは大きく変わります」。大事なのは、ミスに対するマイナスイメージを刷り込まないこと。当事者はもちろんチームに対しても同様だ。ミスには、準備不足が理由だったり、できていて当然のことを怠った結果だったりという場合もある。それは、反省しなければならない。だが、チャレンジの中でのミスは「全然OKなんだ」と、佐々木さん。「トライした上での失敗は、評価として伝えてあげること。その過程の繰り返しの延長線上にこそ、成功は生まれるんです」。
●僕はカリスマ的リーダーではない
「僕は決してカリスマ的なリーダーではありません。協調性を大事にしていて、僕一人じゃできないから、みんなで力を合わせてやっていこうよというタイプです」という佐々木さん。チームスタッフは3つの分野で構成されている。
テクニカル分野、メディカル分野、そして運営分野だ。佐々木さんは、選手の状態を心身共に把握するのにメディカル分野のトレーナーをずいぶん頼りにしたという。「人事権を持っている人(=監督)に直接意見を言える人は少ない。選手が一番リラックスできるのはメディカルトレーナーから体のケアを受けているとき。そういう時に出る言葉には本音が現れる。それを吸い上げて欲しいとお願いしていました」。これは、選手の状態を正確に把握することに大きく貢献してくれた。結局、一人で何もかもを完璧にはできない。「みんなで全体を把握する方が、必ずうまくいきます」。
また、選手の意見にはちゃんと真摯に耳を傾ける。「試合中に、選手が僕の指示に反して『私、このポジションに戻った方がいいんじゃないですか』と言ってきたことがある。そのとき、『そうだな、そうしよう』なんて答えたこともありましたよ」とおおらかに笑う。日頃からちゃんと考えて、意見をしっかり伝えてくれる選手だったので信頼関係ができていたからだ。
さらに、ファンの声もしっかりキャッチする。「ファンの方それぞれが、いろんな意見を言ってくれる。一つひとつの個人の意見を聴くということじゃなくて、僕らに対して意見を言ってくれるということ自体が、どれだけ期待されているかを計るバロメーターなので、反応が大きいのはそれがどんなものであれ、とても嬉しいことなんです」。
●常にポジティブであれ
人間だから、スランプに陥ることもある。チームのメンバーがスランプだなと感じた時には、リーダーはどんな声かけをすればいいのだろうか。「スランプには必ず何らかの要因があるはずです。それをまずは見つけることです」。複数の要因が絡み合っている場合もあるが、そんな場合でも一つずつほぐして改善していけばいい。「ほら、一つ改善できたね」ということを自信につなげていく。あせりは禁物。いつまでもミスに気をとらわれているのもよくない。「リーダーの仕事は、メンバーのポジティブな面に常に目を向けること、そしてメンバー自身の目をポジティブな面に向かせて、前に向かって進めていることに気付かせることです」
現在、佐々木さんはサッカー界のバックヤード的な仕事が多いという。政府の男女共同参画などの議員としても活躍中だ。「幅広く視野を広げさせていただいている、まさに学びの時期です」。そんな佐々木さんは、今、こんな夢を描いている。
「日本人女性監督が率いるなでしこジャパンがワールドカップで優勝する!その日を強く願いつつ、楽しみに待っています」。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcast で。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00 生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野、長麻未(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40 頃~)
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