地域の足を守る!イーグルバス谷島賢社長の「創客」戦略
文化放送「The News Masters TOKYO」のマスターズインタビュー。パーソナリティのタケ小山が今回お迎えするのは、イーグルバス社長の谷島賢さんです。路線バス業界は国内の約4000社のうち7割が赤字を抱え、業界としては縮小の一途をたどっている中、イーグルバスは利用者を年々増やしています。谷島氏が掲げる「創客」に込められた想いとは?バス業界のイメージを覆す発想と視点に注目です。
●赤字路線バス事業を引き継いだ過去
赤字路線バス事業を引き継いだ当時の状況について谷島氏は、「地域で交通空白地帯が発生するのは、10年前ではショッキングなことでした」さらに、「観光バス、送迎バスでこれまで実績を出してきたため、路線バス事業も中小規模のコスト構造であれば同じようにできるのではないかという甘い考えでした」と当時を振り返る。どんなに住民が少ない町でも、移動手段がなくなるというのは大問題である。
「解決の勝算はあったんですか?」とタケ。
それまで利益を出してきた観光バス、送迎バス事業と路線バス事業の違いについて谷島氏はこう説明する。「観光バスや送迎バスはお客様との相対契約なので必ず利益が取れます。
観光バスと送迎バスの1年間の稼働率は7割くらい。そのため運転手もバスも休ませることができます。しかし、路線バスの場合、年間365日、朝から晩まで運行しないといけません。バス1台あたり、運転手1人では足りず、高いコストである反面、どれだけ収入があるかもわからない」同じバス事業だからと引き受けてみたものの、実際は抱える問題が全く違ったのだ。
タケは、「どうやったらいいという青写真は出来上がったのですか?」と問う。
当時直面した課題について谷島氏はこう語った。「どこから改善したらいいのかわからない、見えない事業でした。なぜ停留所がここに置かれているのかもわからない。置かれて30年間同じ場所にありますが、高度経済期、バブルの時代から、現在は少子高齢化という劇的環境変化があるのに停留所の場所が変わらないということは問題だと思いました」確かに、バス停は何年経っても同じ場所にあるものというイメージは強い。そこで谷島氏が求めたのが運行データだった。当時は今から約10年前の2006年。今は当たり前のようにバスの位置情報はわかるようになっているが、その頃はデータを取るすべがなかったため、1から作ろうと始めたのだった。
●バス会社が「客を創る」
イーグルバスの理念は「創客」「革新」「社会貢献」「お客様第一主義」「信用」の5つ。一番最初の「創客」は「客を創る」と書くが、バス会社が「客を創る」とはどういうことなのか。
小江戸の町並みで有名な川越を観光バス事業で活性化させた谷島氏は、観光バス事業を始めた当時をこう振り返る。「送迎バスから入って1980年に立ち上げました。私の父も観光、旅行をやっていたので、観光バスをやりたいと思っていましたが、昔は専売制で免許制度が難しかったんです。そのため、福祉の送迎バスから入っていきました」その後、10年間の努力の末、1989年に念願の観光バスの免許を取得。しかし、バブル崩壊で仕事が激減。そこで谷島氏が考えたのは地域を観光化するということ。思い立った谷島氏は、1992年から「小江戸ばす」というバスツアーに挑戦した。その頃は周りにできないと言われた観光バス事業だったが、テレビCMを使ってたくさんのお客さんを集客することに成功。さらに1995年には、一般の観光客のための巡回バスを始めた。それも、初めは観光客がまばらだったが、平成1997年にボンネットバスを導入すると、メディアで取り上げられ、見事会社の危機を乗り越えることができたという。
この経験から谷島氏は、「もともと観光バスは下請け的な業種ですが、お客様を創っていく必要があるのです。この考えは、会社が成長する一つの要件です。当時のことを忘れないという気持ちを込めて『創客』を掲げています」と「創客」の重要性を強く語った。お客様を創ることは、違う言葉で言えば、マーケティング。お客様のニーズ合うような製品、サービスを創っていくのがマーケティングの流れだ。「うちが新しいことをやったのではなく、当たり前の業界に近づけたということです。製造業では当たり前にやっています。工程管理や品質管理ですね。それをバス事業ではできていなかったというのがあります」と、当時バス業界に足りていなかったマーケティング力を指摘した。
バスの運行データを取り、状況を見えるようにした谷島氏。しかし、「私たちは見えれば解決されると思っていた。そして実際に見えたが、データで見えただけでは問題が解決はできなかったということですね」と、それだけでは事態は好転しなかったと話す。その理由と、次に起こしたアクションについてこう説明した。「それはどういうことかというと、運行の比率は変えられます。例えばバスと鉄道が接続してないって時にはそれを直す。これを私たちは最適化と呼んでいるのですが、これで非常に便利になるし、あるいは遅れて走っていると回復運転をしているので、そこを調整してあげるだけで運転手さんが急がなくてよくなる。これはある意味品質なんですよね」
話はデータによる改善の限界の話題に。「だけど、こう言った改善って、3年やると改善するとこなくなっちゃうんですよ。地域のバスの利用者っていうのは年々減少しているんです。そうすると頭打ちになって食らってくんです」...それを乗り越えるために谷島氏が着目したのは、バスとは人がたくさん乗っても乗らなくても変わらない固定費だということ。「両者が一定であれば固定費を下げる。固定費が一定であれば両者をあげる。どっちかなんです」しかし、現状利用者は減っている。この状況から辿り着いた最善の案が、観光客を増やすことだった。「今地方のバスって朝夜の通勤時間は人が乗ってるが、昼間は空気運んでいるような状態ですね。でも観光客って昼間来るんですよ。なので需要のギャップを埋めないといけない。月曜から金曜日は、通勤通学があるけれど、土日は通勤しないから利用が減る。だけど、観光客は土日に一番くる。ということなので、観光客を入れれば実はギャップを埋められる」これにはタケも納得の様子。
次の問題は、どのように観光客を増やすのかということ。データ分析による最適化では観光客を増やすことはできない。「データを使った改善、最適化というのは、バス会社単独でできるんですよ。だけど、人をこちらに連れてくるというときは、地域の方と連携しなければできない。特に観光は、地域を観光興ししなければならないんですよね。そう言ったところで、最適化の次は需要創造を作っていく、それはやっぱり地域連携という当たり前でよく言われるような、町づくりに辿りついちゃうんですよ」バス会社が街興しをするという発想はこうして生まれたのだった。「町の真ん中にバス停留所を作ってそこに結束させて、次の段階としたらここに魅力的な施設や観光客のための施設を作っていくと、そこに人が集まってくる。その時にバスを使っていただく」空港などでよくあるハブ&スポークをバス業界に取り入れたのだった。データの限界について谷島氏はこうまとめた。「データそれだけで魔法のように改善してしまうということではなくて、最終的にはその地域に人が集まる仕組みを作らなければいけない」
●ハブ&スポークと地域構想
「ハブ&スポークというのは、貨物なんですね。これを実際、お客さん全員に乗り換えてくれなんてなかなかできないですよね。首長さんのリーダーシップですよね。これがなければできなかった。私たちはそれをやらせていただいた。非常にいい経験ができたと思います」と、当時のことを振り返る。
「固定費的にはハブ化してしまった方がコストが上がるんですか?」と聞くタケ。
「例えば、ときがわのハブは乗り換え用のハブです。バスが着いてからあまり時間をかけないで乗り換えさせようとすると、それなりの台数って必要ですよね」最初に実施したのは、単純に乗り換え用のハブだった。しかし、わざわざ乗り換えてもらう意味と、バスの台数(コスト)を考えた結果、東秩父村のハブ&スポークが生まれた。「埼玉県の東秩父村というところでやらせていただいたのは、このハブにいろんな施設機能を入れてしまうということです。今、日本の過疎の村や街は商業集積がどんどん希薄になっています。そうすると住んでいる人は外に買い物に行かなければなりません。そのため、そこに施設とか、あるいは観光客のための案内所とか、行政のサービス、こういったものを作ってそこにバスのハブも入れる。そうするとそこにみんなも集まるようになります」このように谷島氏は、地域に賑わいを作り、これを「小さな拠点」構想と呼んだ。「実は東秩父村のハブは4台から3台に削減しているんです。それで同じ輸送量を維持しています」まさに、固定費(輸送料)を一定のまま人数をあげることで、実際にバス1台分(25%)ほどコストを削減することに成功したのだ。
こうして町の観光地化を目指した結果、今ではたくさんの外国人が来るようになったという。「まず観光客には川越を楽しんでいただきます。夜になると川越から京都、大阪まで高速深夜バスが発車しています。すると、例えば昼間外国人の方が江戸を楽しんで夜そのバスに乗って、次の朝は京都なんですよ。その間宿泊費も時間も実は削減できると」
谷島氏が次に着目したのは、ときがわや東秩父村の自然だった。「秩父も凄いよなあ」とタケ。「観光客は、日本の歴史とか美味しいものだけでなく、自然とか体験がしたいんですよね」このような観光客の需要に対して、東秩父村は和紙の里で、日本の和紙を体験することができるのだ。さらに、「日本の風景、日本の自然、これはまた特別なんです。紅葉の時にはハイキング、あるいは自転車に乗ってもらう。こういうものも、必ず地域づくりには役立つと思っているんですね。それができるといいなと思っています」と熱く語った。事業定義が "地域を結ぶ、人を結ぶ、心を結ぶ事業"に変わったという。
●観光業とバス業界の未来
「観光業とバス会社は今後どうなっていきますか?」とタケ。
「今、力を入れているのは、外国人の誘致ですね」実は、川越を英語が通じる街にするために、「英語が通じる街実行委員会」を実行しているんだとか。川越といえば、東京から近く、江戸の面影も残っている。今ではSNSでこの情報がどんどん伝わって、たくさんの観光客で賑わっている。「やはり地域づくりというのは民間の人がやらないといけないんですね。私たちはそれを支援するという黒子の役割ですよね。で、おそらく自治体もそうでなければいけないなあっていう風に思うんです」と、バス事業のあるべき姿を語った。
すると話は「社長にとってのバス」の話題に。「バスとは、可能性を秘めているものだと思うんですよね」東日本大震災の時、谷島氏は「路線バスの原点」について考えさせられたという。そう感じたのは、当時、現地に行った知り合いから送られてきた「路線バスの原点がここにはある」というメールだった。当時、住民は建物が崩壊した状況の中で、仮の施設からお風呂や学校に行っていた。そんな中で必要とされたのは移動する手段。必要な人を必要なところに運ぶことが路線バスの原点だと再確認したという。いつのまにかバスの原点がわからなくなったところに今の路線バス事業の苦労というものがあるのだ。
さらにバス事業の魅力をこう語る。「バスが走っているだけで安心できるという地域もあるんですね。全く何もないところに路線バスが明かりをつけて走っていく、そこに人間感を感じる。やっぱりバスっていうのは可能性を秘めています」
さらに、話題は自動運転化の話に。「自動運転化もものすごく進んでいます。私は今の運転手さん不足から言うと、そこは最終的には向かう方かなっていうふうに思うんですね。しかし、地域の人たちが利用する理由には、運転手さんとのコミュニケーションもあるんですね」そう、バス会社のメリットを考えれば自動運転化は必要不可欠だが、利用者の中には運転手の会話が唯一の人との繋がりになっている場合もあるのだ。運転手と利用者のコミュニケーションで生まれる繋がり。これは自動運転のバスでは起こり得ないことだ。こうした状況を受けて谷島氏は、「両方進んで行くのが正しいバス事業の方向性だと思っています」と、今後の課題を語った。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くにはpodcast で。The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金AM7:00~9:00 生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野、長麻未(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金8:40 頃~)
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