乳酸菌ひとすじ半世紀、専門メーカーを率いるトップが 語る乳酸菌ビジネスとは? 株式会社 光英科学研究所 代表取締役社長 村田公英さん
世の中は腸内環境ブーム、乳酸菌の効用を強調したヨーグルトが至る所で売られているが、戦後間もない頃から、乳酸菌が人間にもたらす健康作用に着目し、製品を作り続けている企業がある。主要製品は「乳酸菌」そのものではなく、「乳酸菌生産物質」という乳酸菌が作る成分なのだという。耳慣れない言葉にタケは興味を惹かれた。タケ世代にとって、お腹の健康は大問題。そして、50年という歳月を乳酸菌研究に賭けた村田社長の生き方も実に気になるところだ。
◆スティルヤングを飲んで育ったラジオ好き少年
村田公英さんは山口の生まれ、父は政治家で、同郷の大物政治家とも既知の間柄だったそうだ。政治活動に精力を注ぐあまり、家には生活費が入らない。戦後の混乱期でもあり、村田家では、母が働いて家計を支えた。
「父の人脈を利用して、母は乳酸菌を使った飲料『スティルヤング』という製品の販売員をしていました。母が勤めていたのは、開発者の正垣一義氏の会社でした。戦後の食糧難の時期ですから、妊婦が飲むと良いというので、よく売れたそうです。」
村田少年は、体に良いというので、8歳から乳酸菌生産物質が主成分の「スティルヤング」を飲んで育った。少年時代はエンジニア志望、機械いじりが大好きだったそうだ。幼いころから一途な性格で、物事を極めたいと思っていた。ラジオが好きで、仕組みに夢中になり、解体したり組み立てたりするのが趣味で、学生時代は無線にも通じ、ずっとエンジニア志望だった。電気工学の専門教育も受け、その道に進むと思われたが、母に勧められて乳酸菌研究に路線を変更する。
「母の勤め先に入社し、正垣一義氏に師事して研究生活を始めましたが、厳しかったですね。乳酸菌研究の歴史と、これまでの経緯、乳酸菌に対する心構えを徹底的に教育されました。正垣氏は乳酸菌生産物質について国会で演説もし、日本人の健康促進と、復興のために乳酸菌研究を役立てようと懸命でした。」
こうして村田さんと乳酸菌の半世紀を超える付き合いが始まった。
◆乳酸菌の先駆的研究は高く評価されたが、事業は破綻
今でこそ誰もが知っている乳酸菌だが、日本で初めてヨーグルトが作られたのは大正時代にさかのぼる。開発したのは正垣角太郎という医師だった。100年前、細菌研究で有名なパスツール研究所の乳酸菌研究に触発されて作られた日本初のヨーグルトは、37度という乳酸菌発酵に必要な温度を保つために、湿らせたおがくずを燃やすなど、日本独自の方法を考案したそうだ。今や乳酸菌といえばヨーグルトだが、父の研究を受け継いだ正垣一義氏は、次第に乳酸菌よりも健康効果が高い物質、乳酸菌が出す物質に着目することになる。それが「乳酸菌生産物質」で後にスティルヤングという飲料として販売するに至った。
「製品そのものは良かったのですが、販社や出資会社と、経営方針の行き違いなどがあり、うまくいかなかった。当初、乳酸菌生産物質というのは、アミノ酸が多いので、調味料として使うと味がよくなるんです。戦後しばらくは外食産業向けに売れていたのですが、やがて化学調味料が出てきました。味が濃く、安価で手軽ということで、市場を奪われ、事業としてはうまくいかなくなりました。」
昭和44年、研究所を閉めることになってしまった。しかし研究の火は消せない。村田さんは、正垣所長から会社の全権と、製法ノウハウを譲り受けた。
「そこから25年、得意な電気関係で仕事をさがし、ラジオや無線機、通信機器の会社で働きました。一方では、土日には、乳酸菌研究や、会社再興のために、コンサルタントと相談しながら、協力会社や出資者をあたり、交渉を続ける二重生活を送りながら、会社を立て直す機会を待ちました。」
生活のためと、信念のため、過酷なダブルワークを続けた村田さんの尽力で研究は永らえ、関係者の一途な事業再興の希望はつながれた。そして53歳になって、会社設立につながる運命の出会いがあり、現在の光英科学研究所として事業を再興することに成功した。
◆「乳酸菌生産物質」と「乳酸菌」の違いは?
乳酸菌がお腹に良いのは今や常識、しかし「乳酸菌生産物質」という言葉は全く耳慣れない。タケは首をひねる。村田さんが副業で苦労してまで守った製品はどういうものなのか?
「乳酸菌が増えるときに代謝する物質で、創業時からの当社の主力商品です。乳酸菌が身体に良いのは、乳酸菌そのものよりは、乳酸菌が腸内で増えて出す『代謝物』 のおかげです。健康のために乳酸菌を摂り、増やすという考え方もありますが、代謝物を増やすためなら、そのものを摂るほうが早い、という考え方もあるわけです。それが『乳酸菌生産物質』を主要成分にした当社の製品です。」
サプリメントなどの乳酸菌は、大腸の中で発酵させるには、自然環境なので効率が悪い。そこで環境を似せた体の外の工場の発酵タンクで代謝させている。ヨーグルトのように乳酸菌そのものを含んでいるわけではない。
「人間の腸内フローラから選んだ、お互いに相性が良い善玉菌を16種類35株選んで配合して培養し、代謝物を抽出しています。代謝物ですから、乳酸菌生産物質は乳酸菌と違い、生きていません。人間の腸内には500種類以上100兆個の菌が腸内フローラを作っていますが、生きた乳酸菌が届いたとしても、在来菌による防御機能が働いてしまい、多くは淘汰されてしまいます。しかし、代謝物はアミノ酸など、どんな善玉菌にとっても環境を整えるよい成分ですから、歓迎されます。つまり、『乳酸菌生産物』 を摂ると、効率よく善玉菌が増え、バランスのいい腸内フローラになるということです。
それが健康長寿の秘訣です。
◆元気で長寿の秘訣は、腸の健康管理
腸は、栄養の吸収やデトックスだけではなく、腸内フローラによる免疫作用も重要だ。腸の健康にためには、菌の餌になる食物繊維が多い伝統的な日本食が良いことも専門家の間でも見解が一致している。
「戦後すぐは、食べられるものは何でも食べました。ほとんどが麦飯で、芋のつるも食べていた。今考えると、食物繊維が豊富で、健康的な食生活だったと言えるかもしれません。今、日本人の食生活は欧米化が進み、腸の健康にはあまりよくありません。腸の健康を保つことが、以前よりも難しくなりました。健康の基本は、快食・快便。出したものを毎日チェックするとよいと思います。」
身体の便りというだけあって、毎日出てくるものを観察することで、健康状態を観察することは大事なことだ。
「毎朝、形状や色、においなど、体の状態を知るためにはとても大事なことです。理想は半練り状態で、色は黄色か黄土色、バナナ状のものが2本か3本出ること。大腸の中の環境が良好で発酵がきちんと行われていれば、そうなるはずです。匂いは食べたもので左右されます。肉食が多いと匂いが強くなります。焼肉を食べるときもまず野菜、そうすれば大丈夫です。」
60年以上、乳酸菌生産物の恵みを利用している村田さん、70代でも肌艶が抜群によく、お元気そのものだが、食生活では、食物繊維が多い食品ともうひとつ、とっておきの秘密兵器が・・・
「豆乳です。毎日500㏄飲んでください。最近では豆乳が飲まれるようになっていますが、当社の研究で善玉菌の培養には『豆乳』 が一番よいことがわかっています。これは企業秘密だったんですよ。
実は、戦前は、牛乳で培養していたのですが、戦後豆乳で代用したところ、こちらの方が、各段によい餌になるということがわかりました。最近の解析では、健康によい200種類以上の有効成分が確認されています。」
◆共に働くなら運が良い人間を選べ
村田さんは、自他ともに認める強運の持ち主なのだそうだ。経営者として、試練があっても、決してあきらめずに事業を継続した。その強さの秘密はどこにあるのか、タケが質問を繰り出す。
「ぶれないことですね。事業は常に『他利的であること』 を心掛けています。世のため人のためというのでしょうか、人の健康に役立ちたいという気持ちが一番大事だと思っています。経営者として、私はすごくワンマンで、自分が良いと思ったことをどんどん実行してしまいますから、あとから現場の人間は大変だと思います。でも集まってくる人材が、いつも素晴らしい人ばかりで、運が良いですね。
人を採用するときは、運が良い人間を採れと言います。運は天からくるものではなく、自分で引き寄せるものです。いつもニコニコしている人を見ると、この人は運が良いのだろうと思います、そういう人と一緒に仕事をすれば運もやってくる。幸運やチャンスは人が持ってくるものですから、前向きで明るいことが成功の秘訣、これは長い人生で得た実感です。」
インタビューの最後に、村田さんがこれからやりたいことについて、尋ねてみた。
「乳酸菌の研究は、日本は世界の最先端を走る水準ですが、残念ながら、後継者が少ないという事情があります。菌の培養は地道で根気がいる仕事ですが、若い人がもっと関心を持ってくれるといいと思います。最近では、むしろ海外の人の関心が高い気がします。当社の工場や研究施設に視察や研修にくる中国人などの外国人はとても熱心ですね。乳酸菌関連のメーカーさんでも、海外の企業で関心をもってくれるところが多く、日本の乳酸菌研究に関心が集まるのは、嬉しいし、期待がもてます。
乳酸菌研究を続けてきて、最近のブームは嬉しいですね。乳酸菌が体に良い、というので、関心が集まっていることは、研究者として、大変喜ばしいことだと思っています。」
「乳酸菌生産物質」は、健康食品などにも使われ認知が広がりつつある。愛用者が増え、評判が広がれば、さらに多くの人の健康に役立つだろう。紆余曲折を経ても、ぶれずに先人の研究を引き継ぎ、一途に事業を守る村田さんの乳酸菌愛は、戦後の復興を担った親世代の努力と情熱にリンクしている。働きざかりのタケ世代も、明るく前を向いて、今目の前にある仕事にまい進すれば、運が向いてくる、という村田さんからのアドバイスを胸に、お腹の健康も気にしながら、精進していかねばと、思ったのであった。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。
The News Masters TOKYO Podcast
文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
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