2018.3.17

東日本大震災から7年~地元発ビジネスのいま ②地元で長く商売を続けたい~福島県富岡町の富岡ホテル

nmt事務局
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東京電力福島第一原子力発電所から半径20キロ圏内に位置している福島県富岡町。原発事故後、全町民が避難を強いられた町にとって、転換点となった日付が3つある。


まず、2013年3月25日。町の全域が警戒区域に指定され立ち入りができなかったが、この日、3区域に再編され、帰還困難区域以外の2区域では立ち入りが可能になった。街中には、まだ津波の爪痕が色濃く残っていた。


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(2013年4月撮影。津波が襲ったJR常磐線富岡駅)


そして去年、2017年4月1日。上記の2区域の避難指示が解除になり、商業施設がオープン。まさに解除の瞬間、1日午前0時には町内の公園に人々が集い、犠牲者を追悼するとともに、帰還の喜びを静かにかみしめた。


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大雨のなか、「富岡は負けん!」と並べられた竹灯籠が人々の顔をやさしく照らしていた。


さらに、その半年後の2017年10月21日、運転を見合わせていたJR常磐線の竜田駅~富岡駅間が運行を再開し、いわき駅を出発する下り電車の終点が富岡駅になった。


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駅前に住んでいたという女性は、「踏切のそばだったから、電車の音を聴いただけで安らぐね」と朗らかに笑っていた。


一方で、富岡町への帰還は進んでいない。富岡町民のうち、町に戻った人はおよそ3%の450人程度。町民アンケートでも、46.8%が「戻らないと決めている」と回答している。町では2020年3月の町内居住人口の目標を3000~5000人と掲げるが、実現性は不透明だ。


その中で、富岡駅が営業再開する直前の10月17日、駅前に新たに「富岡ホテル」が開業した。地元の個人事業主、8人が共同出資したもので、このうち7人は震災前、ホテルとは全く関係ない商店を駅前で営んでいた。


たとえば、社長の渡辺吏さんの家は食料品店だった。震災時、渡辺さんは親類を頼った後、須賀川市内のみなし仮設で避難生活を送った。その後、誘いもあり、大玉村の仮設住宅で商店を共同で運営。およそ5年間、避難した町民たちの買い物を支えた。


その頃から、仲間内で「いずれは富岡で何か商売をやりたいね」と話すようになっていたそうだ。現在58歳の渡辺さんも、まだ働きたいと考えていた。


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では、観光業には素人のメンバーたちが、なぜホテルを作ることにしたのか。渡辺さんは「あんまり深く考えていなかった」と苦笑する。


「なぜホテル?ってよく聞かれるんですけど、他に選択肢がなかった。当時は宿泊施設が足りないと言われていたし、震災前にやっていた商売が成り立たない人もいた。個人経営の食料品店を地域の人がいない中でやろうとは頭になかった」


富岡駅を降りたつと、整備されたロータリーの右手に区画整理された街が広がる。周辺に建物があまりないため、4階建ての富岡ホテルはとても目立つ。


開業からおよそ5ヶ月が経過したが、原発関係の仕事に従事する人が主な客層で、時々、避難先から自宅の様子を見に来た町民らが泊まるという。ただ、企業が寮やアパートを整備していることもあり、目標とする稼働率7割にはなかなか届いていないのが現状だ。


それでも、渡辺さんは長期的な視野を持ち、悲観はしていない。


「はっきりいってまだまだ。商売だからある程度うまくいってくれないといけないが、息を長く、焦らずにやっていきたい。次世代に繋げていきたい」


また、富岡町の未来についても現時点で"帰還が進まない。何パーセントしか戻っていない"と言って欲しくないと強調する。


「7年の空白があって、1年で何パーセント"しか"っていうのが嫌で。しょうがないと思うし、7年の空白は7年でも取り戻せない。当然1年でも。戻る、戻らないは個人の判断だが、長い目で見て、"いろいろあったけど、こうなったね"って。20年後に街を見て、そこで判断してほしい」


渡辺さんの話しぶりは淡々としていたが、「とにかく長く商売を続けたい」という強い想いがにじみ出ていた。


ところで、富岡町には夜ノ森の桜並木という観光名所がある。2.2キロにわたって桜が植えられているが、このうち1.9キロは帰還困難区域にあり、桜並木の途中にフェンスが設けられている。2013年は空間線量が高いとして車内からの花見を呼びかける看板が立っていたが、去年は歩行者天国となり、多くの人が桜の下をゆったりと歩んでいた。


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(去年の桜並木の様子)


さらに今年は、震災後初めて「桜まつり」が行われるほか、町内で小学校と中学校が再開する。少しずつ日常が戻るなか、次世代に引き継ぐべく、渡辺さん達は、きょうも富岡駅前で働いている。


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