ビックカメラ宮嶋社長、新卒第1号からトップへ昇りつめたビックな力
80年代から90年代にかけて品揃えと低価格を武器に急成長を遂げた"家電量販店"は、様々なモノを格安で売る新しいタイプの流通・小売りの形を築き上げた。その後、国盗り合戦のような業界再編を経て、最近では異業種への参入を模索するなど"家電量販店"は次なる進化が始まっている。
劇的に変化してきた業界の荒波の中で、大卒1期生として入社して家電量販店一筋でトップに昇りつめた株式会社ビックカメラの宮嶋宏幸社長に、文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティでプロゴルファーのタケ小山がマスターズインタビュー。
先頃「家電でない商品を伸ばしていく」と明言した宮嶋社長。11月から主に医薬品や日用品、酒類を中心に、各家電を取り扱う予定の『ビックカメラセレクト』と玩具専門の『ビックトイズ』という新しい形の店舗を出店する。またAIやIoT時代の本格的な到来で再び盛り上がる気配のある業界。ダイナミックに激変し続けている家電量販業界について語っていただく。
◆急成長する家電量販業界へ飛び込む
1984年、宮嶋宏幸氏が家電量販店に就職したのは、たまたま出会った他大学の就職課の先生に紹介されたという、ちょっと変わった経緯であった。なんとなく教諭になりたいと考えて大学の英文科に入った宮嶋氏に、その先生は「君の様な男は大手企業に就職しても歯車になるだけ。ベンチャーのような小さな会社で、とにかく3年間は歯をくいしばって頑張ってみろ。苦労するとは思うが3年頑張れば次がみえてくるから」とビックカメラを紹介してくれた。
1978年池袋駅前に創業した『ビックカメラ』に、大卒1期生として採用された宮嶋氏。創業6年目のまだ規模のちいさな会社だったので、商品の値付けから補充、発注などなんでもこなさなければならなかった。ランチをとる暇もなければ、帰宅も遅く寝る時間も無い。そんな日々が続いた。辛くて何度もくじけそうになったが先生の言葉を思い出して頑張った。
とは言え、ビックカメラは急成長していたので、たくさんのお客様にご来店いただき充実した毎日でもあった。振り返ってみれば、あの3年間は大変だったが、今があるのはあの時がむしゃらに頑張ったからだと言う。
「3年を過ぎてみると、自分も少しずつ成長してきたんだなと実感できるようになるんです。そして4年目からは早いですね。その先の目標が見えてくるんです」3年間で培ったものがベースとなって、急成長していけることを実体験したのだと言う。
ビックカメラの創業者、新井隆二氏から受け継いだことは何かとタケ小山が訊いた。
「印象強い店舗つくり、値段へのこだわり。お客様には驚いてもらい、安さに満足してもらう。興味や関心を持ってもらえれば、そのお客様がリピーターになってくれるし、また口コミで宣伝してもらえる」「ここが安さのビックカメラ」という絶叫のコマーシャル「3割4割は当たり前!」というCMもそのひとつだ。
今までになかったやり方、スタイルで商売することで、お客様に振り向いてもらい、足を向けてもらって、購入してもらう。その繰り返しが、今でもビックカメラのベースの考え方となって脈々と続いているのだ。
◆"チャンスは自らが切り開く"
若かりし頃の宮嶋社長は店頭販売で優秀な成績をあげていた。実は、小売り販売に目覚めたのは大学時代のアルバイト経験からだと言う。「宮大工や議員秘書、就職情報誌の営業など様々な分野のアルバイトを経験しました」
その中でたぐいまれなる才能を発揮したのが、大型スーパーでの家電販売。なんと毎日のように冷蔵庫を売り上げていたそうだ。「その時はモノを売る喜びに震えました」この成功体験で、小売業が一番向いているのではないかと思うようになったのだそうだ。
それにしても、大学生が毎日のように冷蔵庫を売り上げていたとは恐れ入る。「モノを売る極意っていうのはあるんですか?」とタケ小山。
「接客と言うのは、お客様と相対した時、そのお客様のニーズを短時間で的確に捉えることだと思います」
カメラであれば"どんな被写体を撮りたいのか?"パソコンならば"どういったことをしたくてパソコンが必要なのか?"など、お客様の生活シーンに入り込めることが大事だと言う。
「どの商品の何を見ているのか?お客様がおっしゃることの真意はどこにあるのか?それに対して的確に言葉を投げかけることができるか?」これが宮嶋社長の接客の極意だ。
その上で注意しなくてはならないのが商品知識をひけらかさないこと。「自分は商品に詳しいからといって知識をひけらかしては、お客様にとっては雑音にしか聞こえません。なるべくお客様にしゃべっていただくように仕向けることが大事です」お客様から話を引き出す。上手な"間"の取り方。これが接客コミュニケーションに必要だと言う。
そんな宮嶋社長の語録の中に『お客様に背を向けて接客しなさい』というのがある。一見お客様とのコミュニケーションを放棄したかのような言葉だが、タケ小山が訪ねると・・・
「売り場で大きな声で『いらっしゃいませ!』と叫んでも、お客様は近寄ってくれないんです。背中を向けて作業していたり、掃除をしていたりすると、お客様は自由に興味のある商品に近づいていくものです。その様子を、気づかれないように観察してお客様のニーズを確かめます。そしてタイミングを見計らって、或いはお客様が販売員を探し出したところでお声がけする」
確かに、客として商品を見て回る際、こんな接客はとても気持ちがいいものだ。
「実店舗の良さは、商品を目と手で確かめることが出来て、販売員から商品の機能や特徴を聞くことができることだと思っています。そこにお客様と販売員との信頼関係がなければ、これからは生き残れないのではないでしょうか」
ネット通販が台頭する中、実店舗はお客様と販売員との信頼関係を築くことが大切だと言う。
◆家電量販サバイバル 宮嶋社長のビジネス戦略
80年代頃から成長を続けている家電量販店業界だが、家電不況と言われる時期もあった。成長を続けて生き残っていくには業界再編によって勝ち組となる道を模索しなければならなかった。
2007年にビックカメラはエディオンとの資本業務提携契約を結ぶが解消に至った。その後、2010年にソフマップ。2012年にはコジマを傘下にした。しかし今でも『コジマ』の名前は残っている。
「どうして、ビックカメラで統一しないんですか!?」とタケ小山。
「ビックカメラは都市型、ターミナル型、大型というコンセプトです。一方のコジマは郊外型で、業界は一緒でも業態は違うんです」さらに「子会社になったからといって、ビックカメラブランドにしてしまえば、コジマに通い慣れたお客様は離れてしまいます。お客様が求めるコジマブランドを大事にしながら、ビックカメラならではの深い品揃えを取り入れることで、今までより特徴のある魅力的な店舗になると考えています」その典型的な店舗が最近増えつつある『コジマ×ビックカメラ』だ。
ただすべてダブルネームにするのではなく、地域性を考慮して都市型と地方・郊外型を使い分けるのだそうだ。コジマ単独での新店もありえると言う。
違う業界とのコラボレーションという面白い試みもしている。『ビックロ』だ。
キッカケは、新宿東口の旧三越のビルにユニクロと一緒にテナントとして入ることになった際、柳井社長が訪ねて来られて提案してくれたそうだ。
「ビックロのお客様はビックカメラのカードを持っていない人が多かったんです。ユニクロは女性客が多く、ビックカメラは男性客がほとんどという事実を改めて実感しました」
女性にとって家電量販店はひとりでは入りづらいイメージがある。目に見えない垣根をとっぱらってくれたのが『ビックロ』だった。
「ビックロというお洒落な店舗ができたことで、新しく女性のお客様が増えました。そしてビックカメラの名前が女性にも浸透するようになったんです」ビックカメラというブランドイメージが変わった価値あるプロジェクトだった。
◆ビックカメラ宮嶋丸の羅針盤
小売業はモノを売ることが本業ではあるが、それ以外の取組みがその会社のブランドイメージを左右することがある。オフィスの入口付近にソフトボールのポスターが貼ってある。「女子のソフトボールを応援しているんですね」とタケ小山。
2015年、上野由岐子選手を擁する名門女子ソフトボール部の『ルネサスエレクトロニクス高崎』をビックカメラが引き継ぎ『ビックカメラ女子ソフトボール高崎(愛称はビックカメラ高崎BEE QUEEN)』として活動している。また、ロンドン世界陸上の男子50㎞競歩で銅メダルを獲得した小林快選手、日本女子競歩界の新星、岡田久美子選手を擁する陸上部を創設した。
「今、女子ソフトボールと陸上の競歩を応援しています。やや地味なスポーツではありますが、応援に行ったり、社員同士でスポーツを楽しんだり、スポーツを通じて社内での結束力、一体感が生まれました。いい効果がでています」と宮嶋社長。
今年の6月、東京・豊島区に保育園「Bic Kids」を開園したビックカメラ。家電量販店では初の試みだ。
「働き方改革をしないといけない。シフト制にして子どもを預けやすくしました」
年中無休で開園時間は勤務時間に対応し易いように午前8時から午後9時。従業員の子どもを中心に受け入れるが近隣の住民も利用できるそうだ。
家電量販店初の試みといえば、仮想通貨『ビットコイン』をいち早く導入したのもビックカメラだ。「まだまだこれからですが、お客様にとって便利なことを目指すという観点から仮想通貨を取り入れました。支払い手段は多岐に渡った方がいいはずですから」
1959年生まれの宮嶋社長は「最先端の商品が多いので、若い人の意見を吸い上げ取り入れています。それを反映できるようにしていかないと店舗の魅力が失われてしまうのではないかなと思っています」と積極的に若手の意見を聞くことにしている。流行を生み出す若者の感性をキャッチして生かすことができればヒットにつながる可能性がある。
それで誕生したのが『ビッカメ娘』。店舗の擬人化だ。店舗ごとに擬人化された女の子のキャラクターがSNSで発信するというもので、なんとフォロワーは25万人もいる。「女の子が発信するだけで、興味を持ってもらえる。各店舗にはキャラクターの等身大パネルがあって、夏季限定で団扇も配布した。それを集める目的で来店するお客様も増えているんです。そんな集客の仕方は、ボク等の世代ではなかなか思いつかないんじゃないかな」
◆家電量販店業界のこれから
3強時代に突入したと言われる家電量販店業界。その3強以外にインターネット通販が黒船の様な脅威の存在となるなど、今後の勢力図はまだまだ混沌としている。ネットにはネットの強みがあることをわかった上で、実店舗とネットの両方を持つ強みを訴えていかなければならないと宮嶋社長は言う。
「家電は白物と黒物があります。洗濯機や冷蔵庫など白物は使い方で困ることはほとんどありませんが、テレビやパソコン、スマホなどの黒物は次々と新しい機能がでてきて使いこなせない。そういったお客様の困りごと、より快適に使っていただくためのお手伝いをするのが実店舗の得意とするところです」
「更に、お店に来ていただければ、お酒やスポーツ用品、他にもこんなものまであるんだ!と想像以上の品揃えで喜んでもらえるはずです」実際に見て触れて、店員さんとのコミュニケーションの中から自分が求めている商品を見つけ出す。実店舗ならではの買い物体験だ。
ここ数年、家電量販店は異業種への参入を模索し続けている。特に家電などとセットで考えることができるリフォーム事業へは、家電量販店の7割以上が参入している。
ビックカメラは早くからお酒や薬の販売をしていたが、この11月から専門店をオープンさせる。主に医薬品や日用品、酒類を中心に、各家電を取り扱う予定の『ビックカメラセレクト』と玩具専門の『ビックトイズ』だ。
「この業界の面白さってなんですか?」とタケ小山が尋ねた。
「やはり時代の先取り、生活に密着している非常に近いところの製品を取り扱っているので、未来が想像できる業界だと思う」
ビックカメラの2代目社長に就任して12年。だがまだ58歳。「社長としてまだまだやりたいことがあるのでは?」とタケ小山。
「たくさんあります。我々のテーマは"進化し続ける専門店の集合体"です。しかしまだまだそこまでは到達していません」
家電量販店という枠を突き破って『進化し続ける専門店の集合体』を目指すビックカメラ。「今は、2020年までに売上1兆円を目標にして頑張っています」宮嶋宏幸社長の今後の戦略に注目していきたい。
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