第23回 2010.03.25 ON AIR (最終回)
2010/03/25
『センパツ!』毎週木曜日の『情報満載スタジアム』は
「弁護士中田のタイムリートーク」。
毎週、その時々の“タイムリーなニュース”を
中田総合弁護士事務所の中田
“法律”の観点から解説します。
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○注目のニュース
内部告発
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枝野行政刷新担当大臣は、先月16日の記者会見で
公益法人や独立行政法人を対象にした
“事業仕分け第2弾”の4月からの実施を前に
関係者からの“内部告発”を募集する考えを示しました。
政府の行政刷新会議が設けたインターネットと、
郵便による通報窓口「ハトミミ.com」を活用し、
4月上旬に仕分け対象事業を選定する際の参考とします。
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◆ポイント1 “内部告発”が注目された 2007年 食品偽装問題
中田 「中のことは中の人が知っている――ということで
事業仕分けのやり方として“内部告発”を利用しましょう
ということなんですね」
吉田 「大胆ですよね」
2007年に社会的問題となった食品偽装問題により
“内部告発”が注目されました。
そのほか、自動車のリコール隠し、愛媛県警の裏金プール問題、
病院の医療ミスなども内部告発によって発覚した例があります。
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◆ポイント2 “内部告発”の今と昔
法人や組織内部の問題を、
外部の人・機関が発見することは容易ではありません。
内部告発によって、問題を表面化させることは
問題解決を図るために重要な
交易的な役割を果たしているといわれています。
以前は、
会社や所属する団体に対する“裏切り行為”である
という風潮や、
自分に不利益が及ぶことを恐れることから、
内部告発をする人は多くありませんでした。
しかし、近年は、コンプライアンス(法令順守)の意識向上や
“良心の呵責”などによって
内部事情に精通している人からの、勇気ある告発がなされています。
そこで、内部告発者を保護するため
「公益通報者保護法」が2006年1月から施行されました。
吉田 「それまでは、内部告発をした人を
守る法律ってなかったんですか?!
意外な気がします」
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◆ポイント3 公益通報の対象となる法令違反とは
「刑法」「食品衛生法」「薬事法」
「消費者保護」「環境保全」「公正競争の確保」・・・など
国民の生命、身体、財産党の保護に関わるものが
“公益通報の対象”となります。
(法令違反…刑罰違反に違反する行為/刑罰規定につながる行為)
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◆ポイント4 労働者すべてが公益通報可能
公益通報をすることができるのは
正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなど
自らの労力を事業所に提供する“労働者”すべて。
(公務員も含まれる)
法令違反行為が“今なお続いている”場合だけでなく
“これから発生するかもしれない”(確実性が高い)場合も
通報の対象となります。
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◆ポイント5 通報「先」は?
公益通報をする場合、どこに通報すればよいのでしょうか?
◆働いているところ(労務提供先)
◆監督官庁・行政機関
◆外部 (報道機関/事業者団体/消費者団体)
中田 「“環境保護”の保護法令に対する違反だった場合
『地域住民』も通報先になるんです」
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◆ポイント6 公益通報者を保護する要件
『行政機関』に“公益通報”をして 保護されるには、
次の要件を満たす必要があります。
●不正目的ではない
●通報の内容が真実であると信じるに足る相当な理由
吉田 「噂話じゃダメってことですね」
事業者の外部に“公益通報”をする場合、
さらに、要件が細かくなって・・・
■事業者内部や行政機関に通報した場合、
(通報者自身に対して)不利益な取扱いを受けてしまうのではないか
――と信じるに足る相当な理由
中田 「内部通報したら、自分か解雇された――
ということが起こるのではないか、と
信じるに足る理由がなければダメなんです」
■事業者内部に通報した場合、
“もみ消される”と信じるに足る相当な理由
■上司や行政機関に通報したら口止めされた
■書面によって公益通報をしたものの
20日過ぎても、対応されない場合、
行政機関が(正当な理由なく)調査しない場合
■生命・身体に危害が発生する
発生する危険性が高い場合
これらの中の一つを満たさなければいけません。
中田 「簡単に“公益通報”として保護されるわけじゃない
ということになってくるんです」
吉田 「でも、この要件を満たしていれば
告発した人は守ってもらえるんですか?」
中田 「守ってもらえます。
解雇・降格・減給される――という
“不利益処分を受けない”保護をされます」
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◆ポイント7 “事実上”も通告者が保護されるか
吉田 「内部告発先が勤務先だと、
通報を“躊躇”するという方も多い気がしますね」
中田 「“内部通報”そのものは不正目的がなければ、
自由に、積極的にやってください
――ということなんですけど・・・
外部や行政機関に通報する場合は
要件が厳格なんです」
積極的に運用することができてしかるべき――と考えられますが
現状では、
内部告発をした人が保護されるべき法律にも拘らず
(要件を厳格にすることで)
内部告発を“制約”することになるのでは――という声があります。
また、内部告発者に対する不利益が「ない」とは
必ずしも言えないようです。
◆正規の人事異動を名目として、降格・減給されることも
中田 「法的には守られても
“事実上”そういう(不利益につながる)ことをされたら
どうなのか――という問題は残るんです」
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◆ポイント8 公益通報者保護法はあくまで“バイパス”
コンプライアンス(法令順守)態勢が確立している企業などでは
内部告発によって、自主的な問題解決が期待できますが、
体制が確立していない事業者などでは、
告発が放置される、または
告発者に(事実上の)不利益が生じる可能性があります。
中田 「『公益通報者保護法』は“バイパス”なんです。
コンプライアンス体制がきちんとできていれば
『公益通報者保護法』の目的は達せられているはずなんです。
“本流”が機能しないことをふまえて
この法律はバイパス=傍流として
定められていると考えるべきだと思うんです。
だから“内部告発の奨励”をしているわけじゃない
“バイパス制度”を整備することによって
“本流”の流れを良くしましょう――ということなんだ、と
考えなければうまくいかないと思います」
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(中田)
個人が自立しなければいけない
自己決定、自己規律
お互い正しいことをして、正しい社会・皆のためになる社会を
作っていきましょう――と促進する法律だととらえるべきなんです。
各事業者や組織・行政機関が
自覚的に取り組んでいかなければいけない――
そのことによって
『公益通報者保護法』はなくてもいい法律になる、
その時が来ると信じて・・・信じたいと私は思います」
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番組をお聴きいただいた皆さんへのメッセージ
(中田)
「“法”というものはどういうものなのか――
どういう風に物を考えるのか――
あるいは、この社会が何を目指しているのか――
その中で自分がどうやって生きていくのか、
何を目指すのか、何が幸せなのか、
何が正しく、何が正しくないのか、
自分の力で考える――ことが
実は“法”に基づいてものを考えることになるんだ・・・
ということを、最後に申し上げたいと思います。
ありがとうございました」
半年間のご愛聴ありがとうございました。
投稿者 senpatsu : 2010年03月25日 21:00