第18回 2010.02.18 ON AIR
2010/02/18
『センパツ!』毎週木曜日の『情報満載スタジアム』は
「弁護士中田のタイムリートーク」。
毎週、その時々の“タイムリーなニュース”を
中田総合弁護士事務所の中田
“法律”の観点から解説します。
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○注目のニュース
和解
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いわゆる“リーマンショック”の余波などで廃業に追い込まれた
JR品川駅前の『京品ホテル』の元従業員が
経営会社に対して、地位確認などを求めていた裁判で
和解が成立していたことがわかりました。
この裁判は、おととし10月、リーマン・ブラザーズの日本法人による
債権回収などをきっかけに廃業した 京品ホテルの経営会社に対し
解雇された従業員46人が地位確認などを求めて
東京地方裁判所に提訴していたもの。
従業員を支援している 東京ユニオン によると、
1月29日に、経営会社の破産管財人との間で
和解が成立した――ということ。
「和解の内容は守秘義務があり言えないが“勝利的な和解”だ」としている。
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◆ポイント1 和解の定義は・・・?
京品ホテルは、2008年10月に廃業したものの
その後も、従業員の方々が“自主運営”の形で営業を続け、
2009年1月に、東京地方裁判所の決定により強制排除され
大きなニュースとなりました。
中田 「きょうは、もっと一般的に
『和解』ということについて お話したいと思います」
日常生活においてもつかわれることの多い『和解』ですが
法律の観点から語られる場合は、
“権利義務”に関わることから、その『定義』が重要になります。
中田 「当事者間に存在する、法律関係の争いについて
当事者が互いに譲歩して、争いをやめる合意をすること
――と定義されています」
今回のニュースでは、
従業員側 と 経営会社側とが 互いに譲歩して 争いをやめる合意をした――
ということ。
したがって、一方が全面的に譲歩する場合は『和解』にはあたりません。
中田 「自分の主張が全面的に通った――ということではない、
ということです」
再び今回のニュースでは【勝利的和解】とありましたが
従業員側が全面的に勝ったわけではなく、
譲歩の程度において、相手方(経営会社側)の譲歩が大きかった――ということ。
中田 「自分たちも少しは譲歩したんですけど
それよりも相手側から大きな譲歩を勝ち取った――と言っているんです」
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◆ポイント2 和解調書
今回のニュースのように、裁判所の関与によって成立した和解は
【和解調書】に記載され、確定判決と同一の効力を有すると決められています。
当事者が、和解の内容を履行しない場合、
裁判所に対して【強制執行手続き】を申し立てれば
強制的に和解内容を実現することができます。
中田 「(いくら)払う――という和解があったのに、払わない場合
和解調書をもとに、お金を取り立てることができます」
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◆ポイント3 和解 と 示談の違いは?
吉田 「“和解”と“示談”は同じですか?」
【示談】は、法律で定められた言葉ではありませんが
多くの場合、【和解】と同じ意味で使われています。
法的に【和解】と【示談】の意味が違う例をご紹介します。
●元横綱・朝青龍の暴行事件
“被害者と示談した”――と報道されましたが
この場合【和解】のように“互いに譲歩”する必要が あ り ま せ ん 。
中田 「一方が全面的に譲歩する場合も“示談”といって
この点が【和解】と大きく違います」
●刑事事件で【示談】が使われるケース
加害者と被害者の間で行われる【示談】は
加害者が真摯に反省している / 被害者の被害感情が軽減されている など
加害者に有利な情状になります。
加害者が全面的に譲歩する内容になり
被害者側が
「加害者の刑事処罰を望まない」(=被害感情の軽減)として
加害者の刑を軽くすることを目的に行われることが多くあります。
中田 「しかし【示談】はあくまでも民事上のものなので
“示談”が成立したからといって、
必ず刑事処分が軽くなるのか――というと、そんなこともなくて
加害者にとって有利な情状として考慮されることがありえる――
そのことによって、刑事処分が軽くなる可能性がある――ということに
とどまるんです」
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◆ポイント4 交通事故における示談
吉田 「交通事故を起こした時に
被害者と加害者の間で“示談”って、聞きますよね」
【交通事故】は刑事事件にもなりうることから
【和解】よりも【示談】という表現を使うことが多いようです。
しかし、事故によって生じた損害の賠償をめぐる権利・義務について
双方が互いに譲歩する――ことが多く、
実際には、法的な【和解】であることがほとんどでしょう。
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◆ポイント5 和解する際の注意点
【和解】は“争いをやめる合意”。
原則として、あとから、和解の時には知らなかった事実が判明しても
『勘違い』だった――とは言えません。
中田 「たとえ和解の時に知らなかった事実が後から明らかになっても
和解の内容に拘束される――『和解の確定効』といって
民法に定められているんです。
“うっかり和解”はダメなんです」
しかし【救済判決】といえるケースとして
交通事故の際に、事故後、相当後から“後遺症”を発症し、
早急に少額の賠償金をもって示談がされた場合
“示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権”は
示談当時に予想された損害についてのものだけ――と考えるべき。
予想できなかった、再手術や後遺症などが示談後に発生した場合
損害をあらためて請求することができる――と判例でいっています。
吉田 「後遺症は示談の後でも請求できますよ、ということですね」
和解の趣旨からは認められない考えのようですが・・・
法律上“当事者の合理的意思に合致するか否か”という言葉が使われます。
つまり 普通に生活する一般市民の日常感覚に即してどうなのかということ。
中田 「法律というのは、社会に広く適用されるので
誰でも納得できる結論を導くために
必ずしも“書面や言葉に表れていない意思”を
解釈しなければいけないということもあるんです」
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(中田)
「わたしたちの生きている、自由な社会は
【意志】ということと、意志の合致を意味する【契約】というのが
非常に重要なキーワードなんです」
「交通事故の後遺症をめぐる裁判は、長年にわたって
最高裁まで争われて、“合理的意志の解釈”ということで
ようやく救済されたんです。
いずれにしても安易な“うっかり和解”は禁物ですよ」
次回もお楽しみに!
投稿者 senpatsu : 2010年02月18日 21:00