中田総合法律事務所

第15回 2010.01.28 ON AIR

2010/01/28

『センパツ!』毎週木曜日の『情報満載スタジアム』は
「弁護士中田のタイムリートーク」
 
毎週、その時々の“タイムリーなニュース”を
中田総合弁護士事務所の中田[なかだ]光一知[こういち]先生が
“法律”の観点から解説します。

Nakada&Ruiko_04_36.jpg
____________________________
 
 ○注目のニュース
  
  過労死

 ********************************************

  大手ファストフード店に勤務していた25歳の男性が
  急性心機能不全で死亡したのは
  “過労”が原因――として、男性の母親が
  遺族補償給付などを支給しない処分を取り消すよう
  国に求めた訴訟の判決が、
  今月18日、東京地裁でありました。

  裁判長は「業務の過重な負担により病気を発症し死亡した」
  と述べて、労災を認定し、不支給処分を取り消しました。

  男性は2000年11月7日正午から、翌日8日午前5時30分まで働き
  一度帰宅後、正午に再び出勤後まもなく亡くなりました。
 
  病気を発症するまでの6ヶ月間で
  時間外労働が80時間を越えた月が相当あったとのことです。
 
 ********************************************
 
  ◆ポイント1 「労災不認定処分」の取り消しを求める行政訴訟
 
  はじまりは、労働基準監督署長が亡くなった男性について
  労災認定をしなかったことこと(=労災不認定処分)。

  中田 「ご遺族は、息子さんが亡くなった原因は何だったのか
      大きく問題にしたと思うんです」

 遺族は
 不認定処分をした労働基準監督署長を被告として
 「労災不認定処分」の取り消しを求める行政訴訟を提起
  
   東京地方裁判所は
   労働基準監督署長の認定処分を「間違い」とし
   男性の「過労死」を認めました。
 
 この判決に至るまで、
 男性が亡くなってから9年の歳月を要しました。

 中田 「行政・役所の処分を覆すのは
     非常に長い期間と、大変な労力がかかる場合が多いんです」

____________________________
 
  ◆ポイント2 裁判所の判断が「過労死」認定基準の改正に
 
   過労死とは
   過度な労働負担が誘引となって、高血圧や動脈硬化などの
   基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患、
   急性心不全などを発症し、
   永久的労働不能、または死に至った状態。(厚生労働省の定義)

   過労死の認定基準は、
   過去2度、平成7年、13年に改正されています。

   労災認定をめぐる具体的なケースに関して
   行政訴訟が提起され、
   その裁判所の判断が“改正”へつながるきっかけとなりました
____________________________
 
  ◆ポイント3 時間外労働
 
   ニュースの判決では
   男性の自宅での作業も『業務』にあたる――と判断し
   時間外労働と認定されました。

 中田 「これがおそらく、最初の不認定処分と
     判決の認定とがまったく正反対になった
     大きな理由ではないか、と思われます」

____________________________
 
  ◆ポイント4 法定労働時間

 中田 「過重労働は、刑事事件。
      事業主の犯罪にもなるんです」

   労働基準法には「法定労働時間」として
   1日8時間、週40時間を越えて労働させてはならない――と
   定められています。

 この法定労働時間を越えて労働時間を定めるには
 書面による労使間協定が必要です。

   その場合も「年360時間を越えてはならない」
   「通常賃金の25%以上の割増賃金を
   支払わなければならない」と定められています。

 中田 「割り増しどころか、賃金自体を払わない
      “サービス残業”が横行している実態の中で
      過労死という問題は起きてくるんです」

____________________________
 
  ◆ポイント5 罰則

  労働基準法に違反した事業主に対する刑事罰は
  6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金。

 中田 「過労死という結果が生じた場合は
      軽すぎるんじゃないか――という批判があります」

 また、事業主は、雇用契約上の義務として
 雇用している従業員が安全に業務に従事できるようにする義務
 “安全配慮義務”を負います。

  この義務を怠ると(安全配慮義務違反)
  “債務不履行”として生じた損害に対して
  賠償しなければなりません。
____________________________
 
  ◆ポイント6 市民の行動が制度を変える

  労災・過労死の認定・判断では、因果関係をめぐって
  長期間にわたり争われるケースがあります。

 中田 「もともと持っている体質・疾患や
      業務外の日常生活習慣がありますよね。
      事業主は(死亡と労働環境には)
      “因果関係がない”と主張する場合が多いので」

 吉田 「解決するのって大変ですよね」
 
  これまで、市民が、労災認定をめぐる裁判、
  事業主の民事損害賠償についての裁判などを
  起こすことで、
  裁判を通じて、制度が変わって(改正)されてきました。

 中田 「民事賠償請求の中で厚生労働省の基準が
      (判決の)基準にされているということは
      一市民の裁判提起や、地道な活動の中から
      厚生労働省が動いて
      市民の権利を確保することにつながっているんです。
      一市民の問題提起が、制度を変えていくことになり
      我々弁護士は、常にそう思って仕事をしているわけですが
      皆さんも、がんばってもらいたいと思いますね」

____________________________
 
  ◆ポイント7 国際社会の中の日本

  国際労働基準を定める国連の機関「ILO」が掲げる
  188の条約のうち
  日本が批准しているのは、わずかに48

 中田 「国際的な労働基準を
      日本の国内法にしていないということです」

   特に問題となるのは、
   労働時間に関する17の条約で、
   日本はひとつも批准していません

 中田 「国際世論の中では、日本は
      “労働基準が守られない国”として
      有名なんだそうです。
      とても不名誉で、先進国とはいえない――
      ということになると思います」

____________________________
 
 中田 「過労死の悲しい問題をなくしていくには
      条約の批准をするとか、国内法を整備していく、
      そして、法を守る順法意識が向上しないと
      本当にはなくなりません。
      “ワーク・ライフ・バランス”を実現するには
      これからの努力が絶対に必要ですね」

____________________________

中田先生セレクションの1曲

 ハッピー・アワー / トミー・エマニエル
 
次回もお楽しみに!

投稿者 senpatsu : 2010年01月28日 21:00

« 第14回 2010.01.21 ON AIR | メイン | 第16回 2010.02.04 ON AIR »