2016年2月8日 田岡正堂書
改めて「縁」というのは不思議であり、有難いものだと思う。
今から42年前、高校時代書道部に所属していた。
男子校で書道部。
興味があったというよりは、強引な勧誘で入部。
担当教師からの強い勧誘があったからだ。
「寺島君、書道部に入るといいぞ~。活動時間は短いし、
合宿はシャンデリアのついたサロンカーだ。美味い物も食べさせる。
頑張れば、書道展で賞も獲れる。どうだ!決まりだな。
仲間を誘って入りなさい。」
穏やかな表情の一方で低音の情熱が迸った。
恩師、田岡正堂先生である。
気弱な私は「はい・・・」返事をしていた。
先生は、有言実行。
サロンカーで合宿に行ったし、感動する位美味しい物を何度も御馳走になった。
卒業と同時にお会いするチャンスはなく
先生どうしているかなあ、折に触れ考えていた。
時は流れて2015年初夏。
田岡先生の遺墨展を知らせてくださった方がいた。
先生は3年前に亡くなっていたのだ。
ショックと同時に無沙汰を詫びたい気持ちが強く込み上げてきた。
数日後遺墨展に。
ホールに入ると、そこには懐かしい先生の大小様々な文字が。
「お、来たか!」
低音が聴こえたような気がした。
その日から先生のお弟子さん達との交流が始まった。
田岡先生が繋げてくれたご縁。
この金曜に先生がよく通ったという鮨屋に誘ってもらった。
東京・淡路町「鮨葵(すしあおい)」、上品な店だ。
暖簾をくぐると10人程が座れるカウンター席。
奥に、6人が落ち着ける座敷がある。
その座敷に通された。
「この座敷で、田岡先生は刺身や握りを旨そうに食べていました」
お誘い頂いた書道・鴎友会近藤会長や徳村氏が懐かしそうに語る。
「先生は結構好き嫌いがありましてね。その先生が、鮨葵は旨いと。」
刺身をいただいた。
思わず唸った。
普段美味しいと思って食べている刺身の10倍感動。
「今夜は、田岡先生がラベルを書いた酒を飲みましょう」
日本酒は秋田酒造、大吟醸・飛翔の舞。
焼酎は本坊酒造、縁(えにし)、芋焼酎だ。
どちらも先生の書と似て、スッキリしている。
田岡先生が繋いでくださった縁。
あの時、私を書道部に誘わなければ、この宴はないのだ。
昔話に花が咲き、気が付けば泥酔。
久しぶりに呂律が回らなくなった。
「きっと先生も喜んでいますよ。また飲みましょう」
近藤会長の締めの言葉でお開きとなった。
ふらつきながらの帰り道、先生の声が聴こえた。
「寺島、酒は程々にな!」
えへへ、先生、気を付けます。