2012年1月23日 備前焼への誘い
ひょんなきっかけから、備前焼の徳利を入手した。
1月15,16日に行われた「世田谷ボロ市」。
日に20万人の客が詰めかける世田谷を代表する伝統行事。
400年以上の歴史を有している。
最初は古着や古道具など農産物等を持ち寄ったことから
「ボロ市」という名前がついたと聞く。
じっくり見たのは始めて。
午前の早い時間に覗いてみた。
曇天の冬日、今にも冷たい物が落ちてきそうな雲行き。
商売をする側も生身の人である。
売れる物は早くに捌いて、暖かい世界に戻りたい、そんな表情だった。
外国観光客も多数いて、古い端布や古地図を手にしている。
去年の暮れに徳利を破損した我が家。
手頃なものはないかとぶらぶらしてみた。
1つ500円という白磁のものが目に留まった。
思わず手が出かかった。
「いや、待て。もっとぴんと来る徳利もあるはず」
先に進んだ。
メインの通りから右折した。
民家の駐車場を借りて寒そうに店を広げている夫婦。
60代半ばといった風体である。
夫婦は椅子に座り、寒そうに背中を丸め、膝掛けの中に手をねじ込んでいる。
ふと棚を見ると、お猪口と徳利が1つづつ置いてある。
徳利に目が釘付けになった。土の色が生かされている。美しいのだ。
断っておくが、私は陶磁器にまったく詳しくない。
目の前の茶色い焼き物が何という焼き物なのかすらわからない。
ただ良いと感じただけだった。
1メートル先の徳利に目をやりながら
「その徳利、いいですね~!いくらですか?」
寒そうに主人が立ち上がりそれを手にする。
茶色の瓶に白い幅5ミリのシールが貼ってある、それに目を落とした。
「18500円か・・・」
そう呟きながら主人が午前10時の空を仰ぐ。
重たく黒い雲が近くにいた。
やはり良いと思う物は高いのだった。
「備前だよ。それも作家物。欲しいんだったら、う~ん、13000円でいいや」
申し訳ない話をしなければならない。当初買う気はなかった。
決めた予算は3000円。
しかし自分でも不思議なのだが、その言葉を聞いて
財布から1万円を取り出した。
少し悩むふりをして
「1万円になりませんか?」
「え!?」
隣のおかみさんが旦那の顔を見上げる。
表情は「安過ぎだ」と訴えている。
主人はおかみを見なかった。
「もういいよ!!それで!」
語気に怒りが垣間見えた。
寒さと灰色の世界がそうさせたと感じた。
こちらはこちらで、買う気は無かった。
手前で見かけた徳利の20倍。
品を包みながらおかみさんが言った。
「備前の徳利はね、お酒を注げば注ぐだけ艶も出て来るの。」
あたしと一緒とでも言いたげだった。
「そして焼き物がお酒を美味しくしてくれるんだってさ。」
主人が続いた。
「あ~あ、後で女房に叱られるなあ、こんなに安くしちゃってさ」
苦笑いの顔から、包みが私に手渡された。
もしかしたら、客に気持ちよく買って貰う芝居なのかもしれない。
それならそれで満足だ。
10000円で備前焼に興味を覚えた。
骨董市に足を運ぶ機会が増えそうである。
ボロ市に 笑顔の数だけ物語(ドラマ)あり
財布は空で 心は錦